瞬間凍結や需要予測など
今年注目の新技術
鮮魚の長距離輸送を可能にした急速凍結機、過剰在庫や欠品ロスを防ぐ需要予測・需給計画システム、食品容器の脱プラを先取りした紙トレー包装機――。食品業界を取り巻く課題の解決に向けて各領域で技術革新が進んでいる。すでに導入実績を獲得しているものから実装化への期待度が高いものまで、今年話題を集めそうな新技術に注目した。
【ブランテックインターナショナル】
鮮魚の急速凍結技術
長距離輸送を可能に
２�埖腓凌紳笋�20秒ほどで硬直した
ベンチャー企業のブランテックインターナショナル��（東京都千代田区）は鮮魚を瞬間凍結する新型製氷機「ハイブリッドアイス」を2018年から販売している。これまで不凍液とされていた塩分濃度23.5％の飽和濃度塩水を−21.3℃に凍結する技術を開発した。
最大の特長は魚から熱を奪う熱伝導率が非常に高いこと。空気の約100倍、アルコールの約10倍にもなるため、エアーブラストやアルコール液による製氷に比べて凍結スピードは圧倒的に速い。鮮魚の高鮮度保持は最大氷結晶生成温度帯の０℃〜−５℃をどれだけ速く通過させられるかが重要だが、ハイブリッドアイスは従来の冷凍技術に比べて通過時間を大幅に短縮する。
実際、ハイブリッドアイスで製氷したスラリーアイスに漬け込むだけで魚は瞬間凍結する。ヒラメで10数秒、エビで数秒、勢いよく飛び跳ねる大型の真鯛でさえ約20秒で硬直する。
塩分濃度は調整することができ、−21℃〜-１℃まで用途に応じた氷が作れる。これによって活き締め凍結した後に冷凍輸送、店頭販売まで長時間、長距離輸送が可能になる。
鴻池運輸が自社工場に導入
導入先は広がっている。生牡蠣（かき）養殖のケンスイ（広島県廿日市市）は牡蠣のむき身をトレーや袋詰めにした後、ハイブリッドアイスで冷凍し、遠隔地に流通させている。運輸大手の鴻池運輸は今年稼働した水産品の冷凍加工場（大阪市）に導入し、活締め鮮魚や刺身フィレを高鮮度流通で提供している。
同社はコールドチェーンに技術革新を起こすことで「地域鮮魚の首都圏流通網を構築し、水産業の再生をめざしたい」としている。
【キヤノンＩＴソリューションズ】
需要予測・需給計画で
欠品なき在庫削減を実現
キヤノンＩＴソリューションズ（東京都港区）は需要予測・需給計画システム「ＦＯＲＥＭＡＳＴ（フォーマスト）」の導入実績を積み上げている。食品大手（※）に「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」を使ってＳＣＭ（サプライチェーンマネジメント）を構築し、在庫補充業務の標準化や効率化、欠品なき在庫削減をシステム面でサポートしている。
「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」は需要実績を統計的に処理して未来を予測する。一般的に統計処理には「一次指数平滑モデル」や「ウィンターズモデル」など様々な需要予測モデル（予測量の計算式）が使われるが、それぞれに長所、短所がある。
予測したい需要データの傾向（需要パターン）やアイテムの特性に応じて適切な需要予測モデルを選択する必要がある。これまでメーカーの需給予測の実務担当者らはこうした予測モデルの特徴を理解したうえで、アイテムごとにどの予測モデルを活用するかを判断していたが、担当者の勘と経験に大きく依存し、作業負担も大きかった。
予測モデルを自動選択
そこで「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」はまずアイテムごとに需要パターンを自動分類する。需要パターンには需要の波が季節で変動するものや上昇、下降トレンドにあるもの、需要が安定しているものなど様々ある。「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」はそれぞれの需要パターンに合わせて、予測モデルの候補をいくつか仮定で当てはめる。
そのうえで、候補に選んだ予測モデルすべてに、過去の一定期間を評価期間として予測を試行させ、最も実績値に近い予測をしたモデルを自動で選択する。
ここで重要なのは「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」が予測モデルの候補を選ぶ前に、キヤノンＩＴＳのエンジニアが実績データの傾向を分析し、ユーザーとその傾向を共有しつつ、予測モデルをチューニングすること。さらに、販促キャンペーンの実施や消費増税前の駆け込み需要、災害による販売量の減少など一時的に需要量を変化させる要因を取り除いて、需要実績を補正する。
企業の担当者らが予測モデルを決定する負担を軽減するだけでなく、予測モデルの取扱いに知見がなくても導入しやすくした。
ＳＩサービス事業部の今井太一数理技術コンサルティング部長は「使い勝手の良さを重視している」と語り、ユーザーニーズを吸い上げながらセミオーダーメイドでシステムを構築することの重要性を強調する。さらに導入後も状況変化に応じてシステム改修を行ったり、予測モデルのチューニングを行うという。
同社の数理技術部門は旧住友金属工業の研究開発部門が起源。長年の研究開発で培った独自技術を起点に事前コンサルからシステム導入サポート、継続的な需給マネジメントの改善支援まで一貫したサービスの提供を強みとしている。
※参考）「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」の導入事例
https://www.canon-its.co.jp/products/foremast/case/
需要予測・需給計画システム「ＦＯＲＥＭＡＳＴ」の概要図
【大森機械工業】
ＳＤＧｓが開発コンセプト
紙トレーの包装の連続ライン
紙トレーを製函した後に内容物を充てんし、紙包材で
ピロー包装を行う
包装機メーカーの大森機械工業（埼玉県越谷市）はＳＤＧｓ（持続可能な開発目標）へのアプローチをテーマに「エコロジーコンセプトマシン」をこのほど開発した。
「エコロジーコンセプトマシン」はコンセプトの段階であり導入例はないが、「このまますぐに使える状態」(同社)と完成度は実用レベルに達しているという。
同ラインは(１)紙トレーを製函し(２)パスタなどを自動供給(３)さらに紙の包装紙で縦ピロー包装し(４)ロボットで番重に整列供給して段積み排出まで一連の作業を自動化した。
これまでにも冷凍グラタンなど成形した紙トレーを使った商品はあるが、今回のコンセプトマシンは製函装置が連動しており、平たい原紙を組み立てる。接着は糊を使わない。
先ごろ開催された「ＪＡＰＡＮ ＰＡＣＫ2019」に出品し、凸版印刷の冷食向け一次容器「レンジでらくチントレー」でライン稼働を実演した。紙の接合部には薄いポリプロピレンでコーティングされており、超音波で熱圧着する。糊のように接着ムラがないため、レンジ加熱の際に食品が容器からにじみ漏れるリスクが少ない。
脱プラを先取り、冷食メーカーへ提案
包材コストはプラスチックより紙の方が若干高くつくという課題もあるが、今後進捗すると思われる食品の脱プラ化、エコ包装化の流れを先取りした提案と言える。同社ではプラ容器からの置き換えが期待できる冷食メーカーやコンビニエンスストア向けに売り込みをかける方針。
紙の縦ピロー包装は、シール部分を必要最小限にすることで、包材使用量やゴミの削減にも寄与する。欧州では紙袋の凍菜が既に商品化されており、今後は日本でも紙袋入り冷食が普及するかもしれない。
「ＪＡＰＡＮ ＰＡＣＫ2019」では、優秀な出展製品を表彰する「ジャパンパック・アワード大賞」を受賞した。審査委員長を務めたシステム技術研究所の槌屋治紀所長は「エコロジーコンセプトマシンはまだ実装されていないとはいえ、紙トレーを機械が組み立て、さらに紙包材で横ピロー包装ができるという素晴らしい概念を盛り込んでいる」と高く評価した。