味の素エンジニアリング(東京都大田区)は工場設備の高精細な3D画像をクラウドにアップロードし、PC画面に再現する次世代型の3D設備管理サービス「PLANTAXIS(プランタクシス)」を食品工場向けにこのほど提供開始した。
特別な準備は必要ない。通常のインターネット環境とPCがあれば設備機器の情報に簡単にアクセスできる。工場から遠く離れた画面上で現場調査や測量が行えるほか、点検情報の確認、工事計画の立案、見積もり依頼ができるため、設備管理の効率化、経費削減、管理ノウハウの継承が可能になる。コロナ禍のように拠点間の移動がままならい状況でも、リモート操作で作業が行える利点がある。
「PLANTAXIS」の3Dビューワ、画像が粗く見えるのは3D点群データによる。3次
元の画面上で機器情報へのアクセスや測量ができる
工場設備を3Dレーザースキャナーで撮影し、設備機器の物体表面をレーザー光で計測する。この時に得られる「3D点群データ」と呼ばれる3次元座標軸を持つ無数の点の集まりを解析して、3次元の立体画像を作り出す。精度はミリ単位まで再現できる。地形測量や土木工事、プラント設計などに活用されているが、これまでは高性能PCと専用ソフト、使いこなす専門家が必要だった。
そこで同社は「3D点群データ」を設備管理システムの操作画面に搭載し、直感的に扱えるようにした。
従来の設備管理システムは表形式の設備台帳を手がかりに目的の設備情報を探すが、1000〜2000はあるとされる設備情報が階層構造で枝分かれしているため、かなりの時間と労力を必要とした。
「PLANTAXIS」は3D画面をユーザーインターフェースにすることで、工場の設備担当者はマウス1つで操作でき、目的の情報に素早くたどり着ける。
川崎事業所の小林隆之総合推進グループ長は「どこからでも現場や設備の“リアル”にアクセスできる。たとえば高所にある配管を点検する場合、通常は足場を組んだり、作業車を手配したりする必要があったが、そうした手間が不要になる」と語る。
実際に操作するところを見せてもらった。3D画像から目的のマシンを探し、該当する設備をクリックすると、マシン情報が画面右側に現れた。点検表や工事計画、物品購入、スケジュール表などと紐づいており、点検から保全業務、工事計画の作成、見積もり依頼、社内承認までのエンジニアリング業務がシームレスにつながることがわかる。
「現場で点検する場合はタブレットでチェックした情報がすべてシステムに反映されるため、管理担当者は現場に行かなくても、点検がきちんと行われているかどうかを確認できる」(小林グループ長)。
同社の試算によれば、点検情報の積極的な活用で故障の予測、事前対応が可能になり、故障時間を20%削減するほか、現場調査や資料作成などの作業時間を25%削減できるという。
右から小林所長、小林グループ長、諸橋篤樹氏
操作性の高さに加え、システムを継続して使えるよう人的サポートを用意していることも大きな特長。3Dレーザースキャナーによる現場撮影から3D点群データ作成、設備情報のデータ入力代行、クラウド管理、定期的なデータ更新、保全データの解析・コンサルティングまで提供する。
設備管理は通常、マシンリストや設備管理計画、日々の設備点検票など大量のデータ入力が必要になるが、人手と手間がかかるため、継続運用が困難になるケースが少なくない。同社がこのデータ入力を代行する。さらに、システム運用のアフターフォローとして専門のエンジニアが定期訪問し、設備保全のPDCAをサポートする。
導入後のアフターフォローまで組み入れた3D設備管理サービスの提供は世界初。小林文宏取締役常務執行役員川崎事業所長は「我々は食品工場の現場を熟知していることを強みとしており、人的バックアップを敢えてサービスに組み込むことでシステムベンダーとの違いを強調できる。今回の設備管理サービスを起点に、お客様と長い関係性を築くことが本来の目的」と語る。
導入ハードルを下げるため、サブスクリプション型サービスとして提供する。年間契約で初期費用は発生しない。定額のサービス利用料を支払えば、導入から運用、機能拡張までカバーする。人数無制限で何回でも利用できる。サービス利用のため、固定資産ではなく経費扱いとなる。
「食品工場の規模に合わせて必要なデータに絞り込んで収集・解析できるため、コスト面も含めて導入しやすいサービスになっている」(小林所長)。
将来的にはAIやIoTの実装化、生産管理システムの導入に加え、施工会社やエンジニアリング会社とのマッチング機能を備えたプラットフォームをめざすとしている。