前川製作所は空気冷凍システム「パスカル エア」を今月1日、発売開始した。マイナス50〜マイナス100℃の温度帯で使う市場に提案する。
これまで同温度帯の冷却は、液体窒素を使うか、フロン系冷媒を使った「蒸気圧縮式二元冷凍」方式が主流だった。「パスカル エア」はこれまでのフロンやアンモニアを冷媒として冷熱を作り空気に熱交換する方式とは異なり、空気を冷媒として、空気の温度を直接的に下げる点が特徴。気体を圧縮すると熱が発生し、膨張すると熱を奪う性質を利用した。
空気をターボ圧縮してから冷却水で熱を奪い、さらに庫内の冷気の一部と熱交換して温度を下げ、それを一気に膨張させて一段と温度を下げた空気を庫内に送り込む仕組み。
空気を冷媒とした冷却システムはこれまでにもあるが、空気中の湿度が氷粒になることや、非常に低い温度でなければ従来方式にエネルギー効率面で劣ることから、商業的な実用化が難しかった。商品化に向け、これまで焼津市のまぐろ冷蔵庫でフィールド試験を2シーズン実施してきた。
圧縮機と膨張機が一体になった
パスカルエアの心臓部
新開発のシステムは湿度対策に特許の独自技術を採用して問題を解決した。効率の面では、膨張する勢いを動力に換えて圧縮動力の一部に使う圧縮・膨張一体型の構造にしたことで、COP(成績係数)を従来の0.4から0.5に高めた。これはマイナス60℃の従来方式との比較であり、より低温領域での使用となればさらに差が開くことになる。
計算上はCOPだけで25%の効率化となるが、空気を直接庫内に送り込むことから、従来方式では庫内との熱交換のために不可欠だったファンコイルユニットの霜取りやファンを駆動させる動力から発生する熱がなくなり、全体的には最大50%という大幅なエネルギー削減ができる。当然CO2の排出も半分。
地球環境負荷がない冷媒であることに加え、磨耗部なしのオイルレス構造でメンテナンスの面で優れている。
空気はほぼ大気圧でダクトに搬送しているので高圧保安法の規制適用外であることや、環境省や経済産業省のノンフロン冷凍システム助成金の対象であることも利点。省エネ関係の助成金も期待できる。冷媒配管などの設備費も安価ですむ。
機種は1タイプ。一基で1〜1.5tの冷蔵倉庫に対応できる。大型の冷蔵倉庫には複数を設置する。
価格は未定。販売台数が未定の現状では機器本体は従来型より高価になるが、同社ではまぐろ用の超低温倉庫やフリーズドライなど従来の用途だけでなく、新市場にも期待している。
設置や配管、保守が容易であることから、マイナス50〜マイナス100℃の温度帯を使う新市場が生まれる可能性があり、「できれば年間30基を販売したい」としている。
前川製作所の中章社長
前川製作所は26日、守谷工場(茨城県)でパスカルの発表を行った。中章社長は「パスカル エアは当社が提唱する冷媒のナチュラル5化の空白の温度帯を埋めるもの」と語り、同社にとって非常に意義が大きい商品であることを強調した。
前川製作所はアンモニア、炭化水素、水、二酸化炭素、空気の5つの自然物質を冷媒とした冷熱事業を推進しており、マイナス30℃前後の温度帯に適したアンモニアとCO2冷媒の冷凍ユニット「ニュートン3000」を今年発売したばかり。マイナス50〜マイナス100℃に対応した冷却機が残る課題だった。
パスカル エアのユニット