超高圧技術に再び着目、関係者を２工場に招く
神戸製鋼所はこのほど、汎用圧縮機をメインとする播磨工場（兵庫県播磨町）と高砂製作所（同高砂市）の２工場の見学会を実施した。食品・水産加工メーカーや食品機械・設備関係者が多数参加した。高砂製作所では再び脚光を浴び始めた食品の超高圧処理装置を中心に紹介した。高橋工業(大阪市、柳井順社長)が協力した。
牡蠣殻むきの実用化を機に開発、食品の日持ち延長効果も期待
食品用の超高圧処理装置
超高圧処理は食品を非加熱殺菌できることから、近年ニーズが高まっている保存期間の延長効果が期待できる。賞味期限や消費期限を延長できれば、加工業者や小売の段階の廃棄ロスを削減でき、搬送頻度の低減が実現できる。
さらに�（歛故舛篩�粘剤など添加物の削減��酵素を失活させる効果や食感を変化させる特性を生かした新食感食品の開発――などの用途の可能性を秘めている。
最近では牡蠣の殻むきを自動化する用途で導入事例がある。
桃浦かき生産者合同会社（宮城県石巻市）は、神戸製鋼所などと共同で、自動殻むき機「かき超高圧処理装置」を２年ほど前から開発してきたが、今年５月に本格稼働を開始した。
一般に、貝の身を取り出す作業は「むきこ」と呼ばれる熟練作業者に頼っている。
しかし、高圧処理をするとまるで加熱したように貝殻が開き、貝柱と殻が簡単に離れる。加圧能力を十分に生かせば、殺菌効果やノロウイルス不活性化も期待できる。
桃浦の場合は震災の津波で住民が移転したこともあるが、高齢化によって「むきこ」が減るという背景にあって、貝加工の省力化に有望な装置と言える。
作業は塩化ビニール製の筒状の容器に殻つき牡蠣を入れ、海水を満たして密封した上で圧力機にセットし、超高圧をかける。１サイクルの作業は約10分という。
高砂製作所のテスト装置による実演では、牡蠣だけでなくアサリの殻むきや、りんごの加圧も行った。りんごは新鮮な風味を残しながらも柔らかい食感になることを参加者に実証した。
貝の殻むきの場合、省人化はもちろんだが、刃物を使わないので身が傷つかない。記者も実際に加圧処理後のあさりを手にしてみたが、軽く振るだけで貝殻から身が滑り落ちた。
6000気圧を食品用の横型で実現
見学した「ＨＰＰ（ハイプレッシャープロセッシング）超高圧処理装置フードフレッシャー」は最大600メガパスカル（約6000気圧）の水圧により食品を殺菌・加工する。
この圧力で生卵を加圧すると茹で卵のように固まるが、生卵の風味は残る。酵母菌は500メガパスカルを越えたあたりから圧力効果で破壊される。すり身はゲル化する。こうした物性を変化させる効果も面白い。
同社は超高圧処理技術をこれまでにも産業機械の分野で培ってきたが、従来装置のほとんどが縦型で、天井の低い食品工場には向かなかった。
食品用に開発したフードフレッシャーは横型。安全性はこれまで培ってきた技術により高い信頼性を確保しており、線巻式圧力容器とプレスフレーム構造により強度は十分。使用や設置に際して資格や届け出はいらない。
日本では食肉での利用がほとんどないが、アメリカやスペインでは、ソーセージやハムの製造に超高圧技術を導入して売上げを伸ばしているという。
日本ではジャムの製造、無菌ご飯や雑穀ご飯などにも利用されている。無菌ご飯の場合、高圧処理により、米の中心まで水が浸透し、レンジで再加熱すると新米以上にモチモチとした食感が味わえる性質を利用した。高圧が還元糖の生成を促進するため、より米の甘みが強くなるのも利点の一つ。