2度のグッドデザイン賞でピンチ脱出
ドリマックス 代表取締役 松本 英司氏

 ドリマックスは主力の野菜類カットマシンに止まらず、肉類や水産物をカットできる万能スライサーを開発するなど活動範囲を広げている。「できない理由を考えない」と語る松本英司社長は、かつて経験した会社存続の危機を“前職”の技能を活かして乗り越えた。

      松本社長

 ――昨年あたりから、食肉や水産加工用にも販路を広げている。 
 松本 当社は野菜加工機が主力で、食品工場や飲食店舗などに納入実績があります。野菜関連の国内需要を一定程度は開拓できました。今は野菜加工分野が成熟してきましたので、さらに売上げを拡大するために新たな需要を創造しなくてはなりません。そこで食肉や水産加工分野への進出で拡大したいと思います。

 ――肉や魚のような異分野のユーザーとの接点は。
 松本 展示会出展で技術が評価され、販促活動の成果もあり、新聞やテレビで当社の製品が取り上げられるようになりました。動き出して間もないですが、食肉と水産加工向けにそれぞれ1件ずつ機械が導入されました。本格化はまだまだこれから。この導入を皮切りに当社も市場調査を繰り返し、より必要とされるものを提案していきます。

 ――松本社長の経歴を聞かせてください。
 松本 もともとはデザイン関係の仕事をしていました。学校を卒業した当時、デザインの中心はアメリカにあり、私も永住覚悟で渡米しました。アメリカでは車のデザインに携わるなど時代の最先端に身を置くことができ、とても貴重な経験となりました。

 ――そのデザインの経験が、2度のグッドデザイン賞受賞(平成9年、平成11年)で開花する。
 松本 当時父が会社((株)ドリマックスの前身、ドリーム開発工業(株)と、販売会社(株)ドリマックスコーポレーション)を経営しており、私はアメリカから一時的に帰国した際、機械をモデルチェンジするときなどデザイン面で手伝いはしましたが、会社を引き継ぐ気はありませんでした。
 しかし、新機種を相次いで開発しようと金型を作って投資したものの、回収できずにいた時期もありました。会社が倒産する寸前というところまでいってしまったのです。父はモノづくりの職人気質の人で、経営に向いていなかったのかもしれませんね。そこで“自分も経営に携わらなければ”と自覚し、アメリカの永住権をキャンセルして日本に戻ってきました。
 そこからが私のドリマックスでの本格的なスタートです。周囲の勧めもあり、会社の再起をかけようと取り組んだのがグッドデザイン賞への応募だったのです。

 ――2度も結果を出した、しかも、その後はメディアなどでも 元気のある企業として取り上げられている。その秘訣は。
松本 当時、会社は落ちるところまで落ちました。あとは這い上がるしかないと吹っ切れました。私は営業の経験はなく、ましてや食品業界も初めての世界でしたが、自分ができると思ったことは何でもやりました。“できない理由を考えるな、どうやったらできるのかを考えろ”。これは今でも社員に伝えていることです。“できない”と決めつけることは、やらずに済む方法を正当化しているだけに過ぎません。

 ――逃げ道を作るな、ということですね。今後の展望は。
 松本 今までは国内に合わせた仕様でしたが、海外展開も視野に入れ、グローバルスタンダードを意識した設計開発にも注力していきます。日本製の食肉や水産品のスライスは海外のユーザーも関心を持っています。野菜のスライスに止まらず適用範囲を広げられたことをビジネスチャンスにつなげていきます。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2013年4月17日号掲載