チョコレート機械に特化した谷沢菓機工業は「ハード」とともに自ら「ソフト」を提案することで、菓子業界を活性化してきた。最近では含浸真空装置を開発、チョコに新しい食感をもたらした。谷沢社長が思い描いたものをエンジニアが形にする――銘菓はこうして誕生する。
谷沢社長
――チョコレート、製餅・和菓子、米菓など多様な製菓機械を手がけている。
谷沢 中でもチョコレート機械は八〜九割を占めており、自信のある分野です。チョコレートは温度に非常にシビアです。種類にもよりますが、成型しやすい温度はおよそ32℃、この±0.5℃で各工程を管理しなければなりません。カカオバターを使っているので、植物性油脂の結晶を安定させる“テンパリング”という工程はチョコレートにとって生命線です。バレンタインのときに自分で作ったことがある人ならば、理解できると思いますが、単純にチョコレートを溶かして固めるだけではカビが生えたように白くなってしまいます。結晶核を安定させることでそれを防ぐことができます。
――機械化にはやはり手作りの基本が根底にあるわけだ。チョコレートの特性を理解していなければ始まらない。しかし、その機械の種類の多さに驚かされる。
谷沢 チョコレートに浸す装置、カーテンでコーティングする装置、チョコで模様を描くデコレーターなど、扱える種類は問いません。クランチチョコ成型機は全国のユーザーに受け入れられた代表機種の1つです。
――クランチチョコは人気がある。
谷沢 あるユーザーは小麦煎餅の製造過程で発生する端材を活用し、手作業でチョコレートを混ぜてクランチチョコを販売していました。従来のチョコ菓子にない食感が消費者の支持を得て、売上げを伸ばしましたが、生産が追いつかないため、機械化を検討したのが開発の発端です。食感を損なわず、量産化が可能になったことで、その会社ではクランチチョコが主力商品として定着しています。
――機械だけでなく、お菓子そのものの知識が不可欠だ。
谷沢 単に機械を売るだけでなく、ロングセラーになりうる商品であるか、ショートレンジ商品であるかといった商品特性を加味しながら、売れ筋のお菓子を企画・考案し、新しい機械を提案します。ハードだけでなく、ソフト面でも積極的に働きかけています。
――ユーザーが喜ぶ機械を提案するには、ユーザー以上にお菓子に敏感になっていなければいけない。その姿勢が御社から菓子業界に新しい波を仕掛ける後押しとなる。最近ではどのようなものがある?
谷沢 「含浸」チョコを仕掛けています。真空技術を応用した含浸製法に着目し、通常は表面にしかコーティングされないものを、チョコレートを製品に染み込ませることで、チョコレート本来の風味を楽しむことができます。
仕組みは真空の釜にバスケット(網状のかご)を設け、その中に材料(コーンパフやクッキーなど)を入れます。それを油で揚げて釜自体を真空にし、真空状態のまま大気圧を開放、そうすることでパフやクッキーなどの気泡とチョコが入れ替わります。
――その製法によく気がついた。
谷沢 ちょっとしたところがヒントとなりました。昔から木材の業界では、この含浸技術を使って防腐剤を染み込ませ、長持ちさせたり、鋳物を強化させるときにも含浸は使われています。以前からクッキーにチョコを練り込ませて焼くというのはたくさんありましたが、熱がかかってしまい、チョコ本来の風味が損なわれます。真空でおいしい状態を保つ、この含浸チョコは日本のユーザーはもちろん、今後チョコレート先進国の欧米でも受け入れられると考えています。
――まずソフトを発明し、それを機械化することでユーザーに積極的に仕掛けている、いい事例だ。
谷沢 私自身が営業で全国の菓子メーカーを見て回っていますが、いい刺激となります。新しいものはすぐには思いつきません。何が受け入れられるお菓子になるかは本当に難しいものです。しかし、自分の目で見て回り、常に考えていなければ何も始まりません。ソフト面で発想したものをハード面で機械化できるエンジニアがいるので、恵まれていますね。
――谷沢社長が頭で描いたものを、エンジニアが形にする――。理想的ですね。今後はどのような方向性を。
谷沢 中国の伸張は気になるところです。いまは日本のコピー機種が多く出回っており、価格の安い機種が彼らのスタンダードですが、そのままでは終わらないはずです。近い将来は精度の高い日本機種がスタンダードになるでしょう。そこにどう切り出せるか、今、その判断を問われることになります。