阿部万寿雄の「食の安全」と「ものつくり」 −34−
工場運営のポイント ―損益分岐点について―

 自分が働く工場の損益分岐点をご存じだろうか? 年間で分岐点がいくら、月間でいくら、1日いくらか考えたことがあるだろうか。
 工場の運営に必要な経費(固定費)と製品を販売した荒利益額(限界利益)が同額であれば、工場の損益はトントンであり、その金額が損益分岐点となる。
 損益分岐点の売上高を売上げ単価で割れば、生産数量が解る。これを示せば、自分の工場は年間何t、月間何t、日産何t生産すれば、損益がトントンになるのか、現場の人たちもより身近な数字として理解ができる。

 もう40年も前のことだが、魚肉ハム・ソーセージ工場で生産を担当していた頃、販売も苦戦しており、工場稼働率が低く、赤字続きだった。そこで営業に対し、販売数量が少ないから利益が出ないのは当然だ、もっと売って工場をフル生産にしてくれれば儲かる工場になる、と力説した。
 営業のメンバーも頑張って、とうとう工場がフル生産までこぎつけた。月末の業績を期待したが、しかし結果は大きな利益にはならなかった。すると今度は営業から厳しい追及があり、それに対し明確な返事ができなかった。残念ながら当時の製造部門には損益分岐点の考えがなかった。当然、限界利益の思想もなかった。
 
 これを機に、製造部門は猛反省し、経理課長を中心にして損益分岐点と固定費・変動費・限界利益を学び、工場運営に導入実践した。
 損益分岐点の考えは工場運営の羅針盤であり、限界利益の確保は変動費の核になる原材料の配合と歩留まりで決まる。
 一方では、固定費を圧縮するために管理部門のスタッフも要員の管理・経費の節減など工場全体で目標を決めて縮少を進めた結果、固定費は低減され、損益分岐点の引き下げを実現した。今までより少ない売上げで利益も出るようになった。
 工場で毎月開く業績検討会には製造現場の責任者も真剣に取り組み、眼の色が変わってきた。その後、工場の業績は短期間に好転し、損益の予測精度も上がるとともに、営業部門との連携も改善し、大幅な業績改善となった。