低コストの油水分離装置を開発
味の素冷凍食品が導入

 水処理プラントメーカー大手の水ing(東京都港区)の連結子会社、水ingエンジニアリング(同、池口学社長)は高効率油水分離装置「YBプロセス」を2019年に開発しているが、パンデミックが落ち着いたことで食品工場向けに本格的に提案を開始し、1号機を乳製品工場に納品した。さらに昨年は味の素冷凍食品九州工場(佐賀市)に採用された。水産大手のグループ企業も導入を検討しているという。

 食品工場にとって動植物系の油分を含む排水処理は頭の痛い問題。水質汚濁防止法や下水道法でノルマルヘキサン抽出物質や水素イオン濃度、窒素、リンなどの排出基準が決められており、適切な処理が求められる。特に油分の総量を示すノルマルヘキサン抽出物質は微生物による生物処理だけではうまく処理しきれず、時間もかかる。

 エンジニアリング本部産業インフラ営業統括部の新村浩司副統括部長は「製造品目が変わると排水の水質が大幅に変わることがあり、濃度基準を超えるリスクもある」と指摘する。

 さらに、食品工場の多くは微細な気泡で油分やSS(浮遊懸濁物質)を凝集し、浮上分離させる加圧浮上装置を使って排水処理を行っているが、油水分離に使う薬品コストや汚泥の処理費用が高く、加圧設備(コンプレッサなど)や脱水機が必要などの課題がある。「YBプロセス」はこうした課題を一気に解決する。

シンプル構造で省スペース実現

 「YBプロセス」は新開発の油水分離剤「YB−200」を投入する混合・凝集槽と直接脱水型の固液分離装置を組み合わせたシンプルな構造が特長で、加圧浮上装置に比べて設置スペースが小さいうえ、初期・ランニングともに大幅な低コストを実現する。

 今回の排水処理のプロセスは油水分離剤を水中に投入して撹拌(かくはん)し、油分やSSを凝集して泥化した後に分離装置で加圧して脱水し、液体と固形物に分離する仕組み。液体は分離装置の下側に落ち、油分を含む固形物は外に排出される。

 分離した液体は工場に既設の処理槽で生物処理できるほか、場合によっては下水道放流も可能という。生物処理槽に油分が流入すると微生物の分解能力が落ちるため、前工程でいかに油分を除去できるかがカギを握る。

 その点「YBプロセス」は油分やSSを高い処理能力で除去し、微生物が働きやすい環境を維持する。

 分離した固形物は通常、アルミや鉄の成分を含む無機凝集剤を使って固めるため産廃処理する必要があるが、油水分離剤の「YB−200」は有機系のため、コンポスト化が可能。処理費用を抑えることができる。将来的にはボイラの燃料に活用することも視野に研究開発を続ける。

             「YBプロセス」のユニット全景

使用電力量は浮上式の半分以下

 ノルマルヘキサン抽出物質の適用濃度は加圧浮上式が最大500ppm(0.05%)程度であるのに対し「YBプロセス」は最大2000ppm(0.2%)と処理範囲は広い。処理能力(除去率)はノルマルヘキサン抽出物質、SSともに平均80〜90%で、チーズ製造工場の実証テストではノルマルヘキサン抽出物質を96%、SSを85%、BOD(生物化学的酸素要求量)を30%削減した。

 産業インフラ技術統括部の藤井貴悠氏は「加圧浮上装置も処理能力は同程度あるが、YBプロセスは機器点数が少なく導入コストが低いことに加え、コンプレッサやポンプが不要なために使用電力量は半分以下に抑えられるなど導入効果は高い」と胸を張る。

 装置はユニット化しており、大規模な設置工事は必要ない。設置場所を決めれば導入しやすい。ラインナップは1日あたりの処理水量(100〜1200㎥)に応じ6機種を揃えた。

 水ingエンジニアリングはIoTとクラウドを活用した遠隔監視サービス「Remomo」を今年リリースし、設備の稼働状況のモニタリングや履歴のデータ取得、異常検知時のアラート通知などの機能を提供していく。同社のサポートスタッフと現場の運転状況を共有、遠隔での運転支援を充実することをめざしている。

 今のところ適用設備は限られるが、徐々に範囲を広げる計画。高齢化や人手不足を背景にデータを読み取れる人材が減っており、需要は今後一層高まるとみられる。24年度中を目途にYBプロセスでも使えるように準備を進めている。