水産物の冷凍惣菜ブランド、順調な滑り出し

 鴻池運輸は新鮮な魚介類を使った和洋風の調理済み冷凍食品を販売するECサイト「魚匠(うおしょう)えびす」を昨年7月立ち上げ、水産物の冷凍加工事業に本格参入した。コロナ禍による飲食店の営業時間短縮や休業の影響でBtoB市場の需要が減少したため、当初想定していたターゲットの方向転換を迫られたが、EC販売が好調な冷凍パンや冷凍弁当市場の顧客を新規に獲得するなど、順調な滑り出しを見せている。

 大阪市の木津卸売市場内に建設した自社工場で製造している。魚の取引きに長年従事したプロの目利き人らが仕入れを担い、メニュー開発は在外公館の元公邸料理人が主導するなど「高級レストランに負けないおいしさを実現している」(川嶋秀弥大阪木津営業所長)。

 和惣菜「魚ゑびす」と洋惣菜「オサカナ・クッチーナ」の2ブランドを展開しており、「真鯛の昆布締め」は瀬戸内産の真鯛と北海道産の昆布をふんだんに使ってじっくり締めた。真鯛のうま味に昆布のまろやかなうま味が染み込み、風味が引き立つ。「とろ鯖煮付け」は生姜の香りとともにふっくら炊き上げた逸品。昨年度の「モンドセレクション」で銀賞を受賞した。

 洋惣菜ではアトランティックーサーモンを焼いて、フレンチマスタードとはちみつのソースを合わせた「サーモングリルのハニーマスタード」、瀬戸内レモンの爽やかな香りが広がる「サーモンのカルパッチョ」が人気を集める。

洋惣菜「オサカナ・クッチーナ」の人気メニュー、「サーモングリルのハニーマスタード」

冷凍パンメーカーにOEM供給

 商品は付加価値の高さを売りにしており、当初はハイエンド層が集う高級飲食店や機内食、海外レストランチェーンなどをターゲットにしていたが、コロナ禍でいずれのマーケットも縮小した。半面、冷凍食品のEC需要が拡大していることから提案先をここに切り替え、営業を強化している。

 芸能人も購入することで有名な冷凍パンメーカーや、健康に配慮した妊婦向けの冷凍弁当メーカーなどにOEM供給している。冷凍パンメーカーはパンと魚の組み合わせに着目し、パンに合うメインディッシュとして「サーモングリルのハニーマスタード」や、バジルとパルメザンチーズのジェノベーゼソースを合わせた「鰆のグリルジェノベーゼ」を採用した。

 意外なところでは、大型のお土産センターがターゲット層に合うとして取扱いを開始した。「コロナ禍で旅行、観光等の自粛ムードの影響もあり、従来のように友人や知り合いにお土産を贈ることができないため、自分用に購入する動きが現れている」(石川孝浩生活関連本部副本部長)という。

 石川副本部長は「小さいパイながらコロナ禍でも需要を伸ばしている市場はある。きめ細かいマーケティングを徹底していく必要がある」と潜在需要の掘り起こしを強調する。

市販用を強化、海外輸出も

 一方で市販用は伸び悩んでいるため、ECサイト「魚匠えびす」のテコ入れを図る。1日約3000人が訪問するが、購入に至るケースは少なかった。そこでフードコーディネーターを新たに起用して見映えを良くしたり、セット商品やアレンジメニューを充実させたりして、購入に結び付ける。

 インバウンド需要が戻るのは当分先になるとみて、海外輸出にも動き出している。KONOIKEグループのネットワークを活用し、昨年は香港のスーパーでテスト販売を数回行った。「とろ鯖煮付け」や「サーモングリルのハニーマスタード」、「鮭の西京焼」が人気を集めるなど、「商品アイテムが絞られ、売れ筋のバックオーダーが入り出した」(川嶋所長)。今年は輸出量を増やし、香港市場を深耕する。

 企業向けの物流や請負サービスをメインとしてきた鴻池運輸にとって自らモノをつくり、販売するビジネスは初の試み。石川副本部長は「同業他社と同じ土俵でせめぎあっていても成長に限りがある。エンドユーザー起点の新規事業を育て、差別化・独創化を図りたい」と語る。