「日本一レベルの高い」品質管理基準
欧米にも対応、トイレ使用後の作業も規定
ハチカン 八戸工場��
日本水産グループのハチカン（青森県八戸市、内海辰郎社長）が竣工した冷食新工場は、日本で最新・最強・最高のフードディフェンス対策を講じたのと同時に、「安全安心対策」と「環境対応」にも徹底して取り組んだ。
安全安心対策としては、日本の厚生労働省が定めた基準に欧米が取り決めた輸入基準を重ね、これにニッスイがこれまで構築してきた品質保証基準を加えて独自に定めた「日水ＨＡＣＣＰ」基準があり、現場で指揮する内海社長に言わせると「日本で一番レベルの高い基準」と位置づけられる。ハチカンの新工場はこれをクリアし、日水の製品を生産できる「認定工場」の資格を取得した。
日水基準の中には(1)工程の衛生区分と人の動線管理、(2)アレルゲンの区分け管理、(3)原料規格保証書による原材料のトレース管理――などが定められている。
衛生管理では、トイレ使用後にアルコール消毒をしてから衣服に触る、と手順を決めている。従業員の動線を管理するため、清潔区の床は緑、準清潔区は黄、汚染区は赤と色分けした。汚染区である包装室に入室する際も、従業員には手洗い、ローラーがけを義務付けた。工場で入り口は、いずれ、手と足を消毒しないと空かない仕組みに切り換える予定。
アレルゲン対策のため原料置場にも壁の仕切りをつけた。
工場で使用する原料は全てトレース管理されたものだけを搬入する。
「エクセレントラボ」による検査分析の取り組みも日水独自。日水グループでは品質検査センターの検査レベルを、中国の青島、タイのバンコクに置く検査室も含め、細かいところまで統一している。検査員の検査分析レベルを審査する基準も設けており、検査レベル向上に役立てている。
つまり、日水が認定した「エクセレントラボ」と認証されれば、国内外を問わず、どのセンターで出た結果も同じレベルで比較、検証できる。認定制度を厳守するため、相当分厚い「マニュアル」を日本語、中国語、タイ語で制作し、チェックしている。ハチカンの新工場の検査室はその認定を受けた。
ＩＳＯ等の外部認証も当然取得している。
さらに原材料のトレース管理と原料資材の誤投入を防ぐ新システムを構築中。目視によるチェックからＩＴによる仕組みに変える。これはこれまで原料、副資材等を使う場合、その素材や賞味期限、分量などは目視確認していたが、これを全てＩＴ化し、コンピュータ管理する仕組み。食材等を投入する際に原料素材をスキャニング確認し、それをクリアしないと次の工程には進めなくする。全ての工程はデータベースで管理する。５月の連休明けには導入する予定。
見学通路には車いすの昇降機を用意した
太陽光で発電、照明、温排水も回収し再生利用
環境・省エネ対策のため廃食油をボイラーの燃料として再生活用。冷凍機は自然冷媒の最新機「ニュートン３０００」（前川製作所）を導入。温排水を回収する蒸気ドレンも採用した。
風除室、玄関とトイレは人の動きで点灯する人感センサー付ＬＥＤ照明。太陽光発電パネル（40Ｋワット）も実験的に導入した。屋外にはソーラーＬＥＤの独立型照明塔５基がある。
このほか、省エネ型の最新鋭「サーモジャックフリーザー」、高圧蒸気フライヤーをはじめ最新機器を多数採用し、効率化を図った。
原料鮭の加工ライン
細かい検品作業も何度も繰り返す
原料からの一貫事業を拡大、新工場で仕組み採用
日本水産は原料調達から一貫した生産システムによる市販用冷食のサブブランド『地球のごちそう』商品を強化しているが、今春の新製品ではハチカンの新工場を舞台に、一貫事業の新たな仕組みを作り上げた。
「ほしいぶんだけ白身魚とタルタルソースのフライ」に使う原料の白身魚フライは、これまで、北米産・ロシア産のすけそうだらを現地で凍結し、中国で解凍してフィッシュブロックに加工し、再凍結して国内（ハチカン）で最終製品に仕上げていた。
今回、仕組みを全面的に改め、南米（アルゼンチン）のほきを船上でフィッシュブロックに加工・凍結し、そのままハチカンに搬入して最終製品に仕上げるため、鮮度が良い。原料の安定調達もできる。
「漁獲から生産加工まで全てニッスイグループで完結する当社だけの仕組み」(細見典男日本水産常務)。しかも｢すけそうよりほきの方がうまい」ことを訴求する。
中期計画ＴＧＬ（グローバルリンクス＝海外拠点とローカルリンクス＝国内基地）を具現化する一貫事業で製品化を可能にした。
同じく『地球のごちそう』マークを付けた「ほしいぶんだけえびリッチカツ」は中聯水産（広東省）のバナメイえびを中具に、ニジコ社（ベトナム）のホワイト／ピンクえびをつなぎとして使用し、女川工場で製品化する。えびが全体の43・１％とふんだんに入れた。味付けはアメリケーヌソースを使い、えびの風味を生かした。５個入り（20ｇ×５）に個数を増やした。
同社の“一貫事業”の定義は「主原料として使う水産原料が同社グループ内で漁獲、加工したもの」。白身魚（すり身を含む）、助子（たらこ）、えび、かに、近海魚などを含む。または「主原料として使う水産原料がニッスイが認証した養殖事業で生産したもの」。ぶり（黒瀬）、えび（中聯＝中国、インドネシア）、さけ（ＳＡ＝チリ）、ぎんぎん（女川）、うなぎ（厦門＝中国）など。
人気商品「包み揚げ」工程
ハチカンはグループ４事業を統合して発足
ハチカンは日水グループの４つの事業体を集約していまの経営形態になった。
母体となった八戸缶詰の前身会社を野田静夫会長が昭和26年に設立。30年に八戸缶詰とし、33年から日水の協力工場となった。
その後、冷凍食品事業にも進出。さらに冷食事業は日水関係会社のハチテイ（旧八戸定温食品）に一部事業移管していたが、日水の国内グループ生産再編計画に伴い、2004年11月、(1)八戸缶詰の本社工場と久慈工場（岩手）の冷食・缶詰事業、(2)日水清水工場の缶詰・瓶詰事業、(3)ハチテイの冷食事業――を統合集約し、株式会社ハチカンを設立した。
出資比率は八戸缶詰60％、日水40％で日水の持分法関連子会社になる。
翌2005年１月から本社の冷食工場、常温工場と久慈工場（常温）が稼働開始。2007年10月に久慈工場のグラタンラインを増設。同じく2007年12月に本社冷食工場の新築工事に着工した。
昨年10月、新冷食工場を完成。同時に、日水のコロッケ、えび包み揚げなどのヒット商品を手掛けていた(4)北海道定温食品からラインを新工場に移設し、北定は工場を閉鎖した。
八戸缶詰はさば水煮缶、帆立貝柱水煮缶等を手掛けている。グループの「味の加久の屋」は八戸名物として知られるウニとアワビ入りの潮汁「いちご煮」缶を製造販売。ほかに八戸協和水産、三星、小袖屋（久慈）等のグループ会社がある。 （ハチカンシリーズおわり）
内海社長（手前左）、吉岡正弘副社長（右）、芦塚正剛取締役業務部長（奥）