「食品添加物はなぜ嫌われたのか」
食品安全研究の第一人者が問題提起

 (一社)日本食品添加物協会(木村毅会長)は「食品添加物メディアフォーラム」を都内で10月30日開催した。国際生命科学研究機構(ILSI)の元事務局長で食品安全研究の第一人者、福富文武氏が「食品添加物(化学物質)=悪者」という誤解に対して問題提起し、食品添加物の安全性と有用性を消費者に正しく伝えるための方策について木村会長と意見交換した。

 福富氏は講演で食品添加物は危険というイメージが社会に浸透した要因として、かつて化学物質が原因とされる公害やヒ素混入ミルクによる食品事件などが発生したことや、様々な警告書が発刊されたことに加え、1950年代に食品衛生法改正で化学的合成添加物の表示義務が課されたことで添加物=化学合成品のイメージが定着したと指摘した。

家庭科教科書でも誤った記述

 さらに、教育現場で以前は家庭科の教科書や給食便りに食品添加物に関する思い込みや誤った記述が見られたり、消費者センターが毛糸を清涼飲料水に浸して着色する実験を行い「こんなに色を付ける合成着色料は摂取を避けよう」と呼びかけたりしたこともあったという。最近も一部メディアによる食品添加物のネガティブキャンペーンが集中的に行われている。

 こうした結果、発がん性の疑念が高まり、内閣府の食品安全委員会のモニター調査では発がんの可能性が高いと信じているものとして「たばこ」、「放射能」、「大気汚染」に続く4番目にあげられた。だが、ハーバード大学の調査は食品添加物ががんを引き起こす可能性は、たばこや食べ物の30%に対して1%としている。わらびやりんご、コーヒーなど食品にも発がん成分を含むものが確認されている。

健康危害の確立は一日摂取許容量が基準

 食品添加物に対する負のイメージが浸透した背景にはリスク評価という概念が当時はなかったことが指摘される。福富氏は「リスク評価科学的手法によるリスク評価と管理、リスクコミュニケーションが重要」と語り、科学データに基づいてリスクを推定(評価)し、それをもとに添加物の指定、使用基準を設定して法制化(管理)するプロセスが日本でも2000年代に確立されたことを紹介した。全てのプロセスでは情報を開示しながら関係者間の連携を進める(リスクコミュニケーション)ことが必要だとした。

 リスク評価では添加物を摂取することによって人にどのような健康危害が、どのような確率で発生するかを推定することが重要になる。ここでポイントになるのが「一日摂取許容量(ADI)」。生涯にわたって毎日摂取し続けることができる、体重を基準にした食品添加物の量のことで、FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)が安全性を評価して許容量を決定している。日本国内で使用する添加物はこのJECFAの安全性を基準にしている。

 こうした科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、科学根拠に基づく予測・評価・ルールづくりを行い、医薬食品安全行政を支える科学分野は「レギュラトリーサイエンス」と呼ばれる。国は「レギュラトリーサイエンス」の推進を打ち出しており、福富氏は「社会ニーズの変容に合わせてレギュラトリーサイエンスを発展させていく必要がある」と語る。

 福富氏と木村会長のディスカッションでは「フードファディズム」が議題にあがった。フードファディズムは食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に信奉したり、評価することで、テレビ番組や新聞雑誌などにあおられることを言い、このメディアに惑わされないことが求められる。

科学情報を正しく伝える方法大事

 木村会長は「食品添加物は安全といくら訴えても、子どもの頃に親や学校から刷り込まれたイメージをひっくり返すのは容易でなはい」とし、「科学情報をどのように消費者に正しく伝えるかが課題」と語り、食品業界あげて情報伝達のリテラシーを高めるべきとの考えを示した。

 福富氏はメディアによるリスクコミュニケーションの重要性を指摘した。海外ではメディアや専門家らに科学に基づいた食品安全情報を提供する「国際食品情報評議会(IFIC)」が機能していることを紹介し、日本もIFICと連携する必要性を説いた。