食品工場のデジタル化を支援
生産管理システムの提案強化
国内ＩＴベンダー（システム開発構築会社）が食品製造業のスマート工場を実現しようと、生産管理システムや需要予測システムの提案を本格化している。これはシステムの老朽化や業務プロセスの分断化、製造ミスの多発など食品メーカーが抱える様々な課題が顕在化してきたため。
食品工場に生産管理システムを導入することで、これまで製造現場ごとに異なっていた業務プロセスを標準化できるほか、ミスを未然に防いだり、在庫管理を効率化することが期待できる。ＩＴ化が遅れていると言われる食品業界。ＩＴベンダー企業は「食品工場でシステム化のニーズは高い」として今年さらにソリューション提案に注力する。
【キヤノンITS】
マルハニチロの直営７工場に導入
業務を標準化、ミス防止策を確立
莖田執行役員（右）と森永部長
キヤノンＩＴソリューションズは生産から購買、品質、原価に至る各種データを一元管理したデジタル統合管理型の基幹業務ソリューション「ＡｖａｎｔＳｔａｇｅ（アバントステージ）」を提案している。
食品メーカーの課題解決に合わせ、最適な国産の生産管理ソフトを組み合わせた業務特化型を強みとしている。これまでの実績が評価されマルハニチロが構想した新生産管理システムを構築した。広島工場や新石巻工場など直営７工場に昨年までに導入した。
マルハニチロはそれまで工場の管理業務の多くを紙やホワイトボード、エクセルなどを使った手作業に頼っており、業務プロセスは工場ごとに異なっていた。そのため、製造指図や原料購買、在庫管理など複数業務で過去にトラブルが発生したことがあったという。
さらに品質の要求水準が高まり、業務量が増え続けているため、業務プロセスの標準化や高度化、見える化、効率化などの業務改革が急務になっていた。
新たな生産管理システムはＡｖａｎｔＳｔａｇｅから�＼源嵯弉茲簓兵繊�原価管理のほか、製造の指図出し機能を備えた「mcframe」、�∪渋だ瀏�の能力や人員の負荷状況を確認して指図作成を補助する生産スケジューラー「Asprova」を導入し、マルハニチロの要望を踏まえて��ミスを未然に防止し品質管理を強化する「QITEC」、�だ瀏�保全・管理の「AMISYS」を組み合わせた。
ここで大きなポイントになるのが上位ソフト「mcframe」から製造実行ソフト「QITEC」に下ろす指図出し機能。例えば調味液調合で原料１�圓魴徇未垢訃豺隋∋愎泙暴召辰瞳徇未靴晋粁舛�規格重量の範囲に収まらない限り次工程に進めない。つまり人間の意思で指図を逸脱した作業をできないようにした。
キヤノンＩＴＳの森永明洋ＳＩサービス事業部製造・公共・流通営業本部営業第一部部長は「今回の目的の一つが作業の属人化を解消し、ミスを未然に防ぐ仕組みづくりだった」とし、「作業ミスを不安に思う作業者の精神的負担の軽減にもつながった」と強調する。
導入効果も確実に表れている。森永部長によれば�’杞腑潺后Ψ徇魅潺垢侶鐃瑤�激減し、�▲據璽僉璽譽慌修凌篆覆濃罎猟�票が大幅に削減、�Ｉ兵全浜�のロットトレースの時間の短縮、�じ粁噌愬磴篋澹亡浜�の標準化・効率化で在庫回転率が向上した。さらに、業務のデジタル化で予算編成や損益管理の一元的な確認が容易になったという。
食品業界向け提案を強化
マルハニチロは新たな生産管理システムを直営工場にとどまらず、今後はグループ全体に広げ、グループ統合基盤として活用するとしている。
キヤノンＩＴＳの莖田（くきた）芳彦執行役員は「システム構築に際してはマルハニチロのプロジェクト推進による協力が大きかった。一緒に取り組むことで当社のノウハウも積み上がる」とし、今回の導入事例を生かし、食品業界向けに提案を強化する考え。
食品メーカーはＭ＆Ａを繰り返してきた背景があり、会計や人事システムの統合、販売管理システムは導入しているが、業務プロセスの標準化などはまだ進んでいない。莖田執行役員は「提案領域は広く、横展開できる可能性は十分ある」と語る。
マルハニチロのシステム概要と導入規模
【内田洋行】
中小に豊富な導入実績
食品製造に特化、機能拡充
内田洋行のスーパーカクテルＣｏｒeはウチダIT
フェアでも来場者の関心を集めた
内田洋行は食品製造など450業種に5000本以上の導入実績があるＥＲＰ（基幹業務システム）をこのほどモデルチェンジし、「スーパーカクテルＣｏｒe」として中堅中小の食品製造向けにソリューション機能を強化した。
食品製造では季節変動や消費動向を踏まえた販売計画と生産計画を立て、実績と対比して在庫をコントロールしたり、製造出荷リードタイムを調整したりする必要があるが、中小企業ではこの予実対比が行われていないケースが多い。
そこで販売計画から生産、販売の進捗状況までを見える化し、予実の差がどうなっているのか把握できる機能を標準装備した。
予実データが蓄積できれば当初計画の見直しや次年度の販売計画に活用できる。
また、販売計画に基づく原価算定や、予定原価と実際原価の差異を見えるようにして、どの製品がどれだけ実際に利益を生んでいるのか、本当に利益が出ているのかなどを把握できるようにした。
経営企画統括部第１企画部の森岡哲企画課長は「生産・販売プロセスを一元管理する枠組みを提供することで管理レベルを上げてもらうことが目的」と説明する。
多品種生産の段取り替えが多い場合や、単一生産工程から複数製品を製造したり、共通原料や半製品を投入して類似製品を製造したりする場合など、需要変化に対応したシステム機能も搭載した。
販売管理では誤出荷をいかに防ぐかが重要になる。森岡課長は「製造ロットや消費期限日付が前回出荷と逆転しない仕組みが必要。販売管理において数量や単価の管理はできているが、ロット情報や日付の管理ができていないことが原因」と指摘する。同社のシステムでは受注時に在庫の即時引当てができるほか、得意先別・商品別のロット管理、日付管理で出荷コントロールができる。
物流機能強化、誤出荷を防止
今回の基幹業務システムのモデルチェンジでは物流機能を強化し、商流在庫と物流在庫が同期できるようにした。在庫を即時引当て、日付管理を適切に行ったとしても、販売管理の画面上（商流在庫）と倉庫（物流在庫）では在庫状況が一致しないことがある。これらを同期させたいとの要望が多かったため、連動させることで在庫の実態を捉えることを可能にした。
さらにバーコードを活用した入出荷検品のプログラムを装備し、ロット逆転、転記間違いなどによる誤出荷を防止する。検品作業の標準化にも貢献する。
消費税の軽減税率対応プログラムを新たに導入するほか、売上げ日報や仕入れ報告などの業務の自動処理、データ閲覧権限の設定、組織変更の対応といった基本機能を強化した。
販売先や仕入先などとクラウド上で連携できるプラットフォームも構築し、ＳＣＭ（サプライチェーンマネジメント）の効率化に向けてサービスの拡充を計画している。
森岡課長は「当社の強みは基本機能に加えて450業種のお客様の導入実績と適用ノウハウ」としたうえで、「食品業界は取扱商品によって課題や要望が異なるが、様々な導入実績を応用展開した解決策を今後も提案していく」と語る。
「スーパーカクテルＣｏｒe」のイメージ
【ＮＥＣ】
ＡＩで需要予測し需給調整
食品ロス削減に寄与
ＮＥＣはＡＩを使った需要予測システム「需給最適化プラットフォーム」を提案している。食品製造から卸・物流、小売までバリューチェーン全体で需給バランスを調整し、過剰生産や過剰在庫の解消を支援する。食品ロスの削減が期待できる。
予測サービスとして�／�品製造の直近の出荷量や、��店舗の日別の来店客数、�Ｆ�別・カテゴリー別の販売量、�て�別・単品別の販売量、�ゼ�要予測をもとにした簡易的な発注数――などを提供する。
需要予測にはＮＥＣの「ＡＩ異種混合学習技術」が使われている。通常のＡＩによる機械学習は予測精度は高くても根拠を示すことができないブラックボックス型と呼ばれるが、ＮＥＣのＡＩは膨大なデータを処理して予測式を導き出す学習アルゴリズムに加え、過去の販売実績や気象情報などの要因がどう影響しているのか、需要予測の算出根拠を明らかにする。「解釈性」を備えたホワイトボックス型だ。
日本気象協会の気象情報や全国約4000店の小売店販売データ、全国約５万2000人の買い物データを外部要因データとして組み合わせている。
さらに川上から川下までバリューチェーンを構成する各企業に販売実績などのデータを提供してもらい、相互に活用し合うことで、従来は企業ごとに行っていた需要予測の精度を大幅に向上させることができる。
ＡＩを使った需要予測は生産性向上やリードタイム短縮、物流の効率化によるＣＯ２削減なども期待できるため、適正な在庫管理を図る動きは今後広がることが予想される。
「需給最適化プラットフォーム」全体イメージ
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食品製造業のＩＴ投資は拡大傾向にある。日本銀行の短観調査では食品業のソフトウェア投資額は2016年に前年比27.2％減だったのに対し、2017年は20.6％増と反転、大幅な伸びを示した。2018年は12月調査時点で27.1％増とさらに拡大している。特に中小企業で投資意欲が強まっている。
内田洋行の森岡課長は「（2009年発売の）Windows７のＯＳサポートが2020年１月に終了する。システムを切り替えるタイミングでもある」と指摘する。