工場改築を機に社員意識が一新
水牛食品 代表取締役社長 保坂 浩一氏

 タレやカレールウ、調味料を製造する水牛食品(東京都大田区)はHACCP対応型工場に改装したところ、今では指導を受けたHACCP実践研究会メンバーが見学に訪れるほど評価を高めている。「以前は町工場のようだった」と苦笑する保坂浩一社長。作業環境を大きく改善することに成功した。

      保坂社長

 ――改装を決めたきっかけは。
 保坂 本社と工場のある東京都大田区に移設したのは1968(昭和43)年。その後、随所で改修を施してきましたが、築30年を超えて老朽化が避けられなくなりました。そこで10年前に大がかりな改修が必要と判断しました。
 しかし、改革が必要だったのは施設(=ハード面)ではなく、むしろ社内の雰囲気だったのかもしれません。実は建物は町工場、そこで働く人たちはまさに“新喜劇”のようだったのです。私はそれまでアパレル関係に勤めていましたが、家業に戻ったころ、目に映ったのは、始業時間の8時30分ギリギリに慌てて出勤してくる女性従業員、半分居眠りしながらボトル充てん機をオペレーションする男性従業員、取引先を回らずに近くのガソリンスタンドで屯(たむろ)する営業マンなど、食品工場の職場環境とは程遠いものでした。

 ――何とかしなければ。
 保坂 しかし、施設を更新するにも充分な知識がありません。そこで、私と同様、家業に戻ってきた弟と力を合わせ、最新の情報を得ようとHACCP関係のセミナーを数多く受講し、FOOMAなどの大きな展示会にも出向きました。弟は大手食品問屋のグループ会社の元営業マンで、食品業界に通じており、中心となって動いてくれました。
 こうした活動が実り、HACCP実践研究会の関係者と知り合うことができました。同会主催のHACCP実務者養成講座などの講習会に数年参加した後、2004年にHACCP対応型の製造工場として全面改修改築工事を行いました。勉強を一から始め、先生方の懇意と熱意のある指導と協力で工場は完成しました。先生自らスコップを持って排水溝を掘ってくださり、現会長も自らハンマーを持って解体作業に参加していただきました。

 ――工場は生まれ変わった。
 保坂 何よりも成果だったのが、スタッフの意識が変わったことですね。嬉しかった。現在では、製造部の全従業員はもちろん、営業社員も含めてHACCP実務者資格を取得し、衛生管理レベルの向上に努めています。
 これを機に営業活動も意識改革しました。それまでは既存の営業ルートを回るのがほとんどで、新規ユーザーをつかむ営業活動に長らく手を付けずにいたからです。2名の若い営業担当者を新たに採用し、営業活動の原動力となっています。

 ――工場も人材も一新した。
 保坂 今後は新たな主力商品を育てていかなければなりません。焼肉サラダのタレや、酢豚、油淋鶏、チンジャオロース、エビチリ、回鍋肉など「中華シリーズ」を1年前に開発しましたが、特に焼肉サラダのタレは家庭用の宅配商品カタログに掲載されるなど好評を得ています。
 HACCP実践研究会の工場視察に選ばれるのは非常にありがたいこと。製造担当者の自信につながります。2名の若い営業担当者はNB商品としての販路を広げようと意気込んでいます。製造も営業も日々の仕事に手応えを感じています。