食品機械を成長事業へ
過熱蒸気の価値を強く伝える
清本鐵工�蝓‖緝充萃�役社長 清本邦夫氏
清本社長
清本鐵工は旭化成の企業城下町として知られた宮崎県延岡市に1937年創業した。1970年代に下請けから脱却し、鉄の製造加工を主軸として船舶やインフラ設備、産業機械など多方面に事業領域を広げてきた。食品機械分野では他社に先駆けて開発した過熱水蒸気調理機「スーパーオーブン」で市場をリードしてきたが、近年は新規参入が増えるなど事業環境の変化が激しい。清本社長は組織改革を含めた戦略の練り直しを進め、成長事業に育てる考えを示す。
――過熱水蒸気調理機の国内パイオニアとして知られる。
清本 1995年頃に開発を手がけ、１号機は宮崎県串間市にある黒瀬水産の前身の企業に1998年納入しました。魚のフィレ加工に使いたいということでした。当時は過熱蒸気の認知度が低く、理解してもらうのが難しい時代。そこで「スーパーオーブン」の特長を知ってもらうため、調理加工のノウハウを少しずつ積み上げてきました。
過熱蒸気は熱伝導が早く、短い時間で焼成できます。食感を崩さずに早く加熱できるほか、過熱蒸気の「極低酸素環境」で加熱するため酸化しにくい、乾燥を防いで歩留まりを改善するなどのメリットもあります。たとえば焦げ目がついたハンバーグをふっくらジューシーに焼き上げるには過熱蒸気が適しており、大手コンビニベンダーで採用されました。霧島酒造（宮崎県都城市）は芋焼酎に使う芋麹を糖化する工程で使っています。
業界でいち早く開発に成功した過熱水蒸気調理装置「スーパーオーブン」
食品機械メーカーをめざす
――新規参入が増えているようだが。
清本 先行優位ではなくなりました。過熱蒸気のマーケットが拡大していることの表れでもありますが、顧客によっては付加価値の高い商品が作れるならランニングコストが多少上がっても導入したいという企業がある一方、そのコストでは難しいという企業もあります。
今は過熱蒸気の価値をどう訴求できるかが問われています。新商品の開発や人手不足対策につながるなどコスト以上の価値を感じてもらえるよう提案力を高めていきたい。
設計から架設まで手がける橋梁メーカーとしても
知名度は高い
――船舶や橋梁の分野では知名度が高いが、食品業界も今後強化する考え？
清本 食品、エネルギー、インフラ、環境の４つを中核事業分野として打ち立て、グループ内の事業の集約をこの５年間で進めてきました。これから食品分野をはじめ各事業の特質に合わせて育成、強化を図ります。
チーム編成を進めたうえで、技術継承と人材育成を加速します。併せて待ちの営業から攻めの営業に切り替えます。営業世代の若返りを図り、外部人材を登用して新しい営業ノウハウを取り入れ、マーケティングなども実践します。
先代の頃から食品機械メーカーになるという思いが強く、我々もそう願っています。自分たちが手がけた機械で作られた商品がスーパーに並ぶ。これは我々にとって大きな誇りであり、企業ブランドを確立するうえで重要な要素の一つと考えています。
海外市場の獲得へ動く
――2020年３月期の業績は？
清本 売上高は単体で約167億円でした。今期（2021年３月期）は新型コロナの影響で減収減益を予想していますが、利益５〜６億円は確保できる見込み。ただ、食品機械と製菓機械の売上げ構成比がそれぞれ1.0％と5.0％にとどまる。そこで新中期経営計画（３カ年）を今年４月から実行し、食品機械と製菓機械を一つの部門に集約して独立させます。
これまでは製品事業本部内の営業部課内にあったため、各事業が埋もれてしまって販売成績が見えていませんでした。これを見える化し、事業のポートフォリオを再構築していきます。
――キャンディ製造機は実は国内シェアトップだ。
清本 「デポジット製法」という、原料を型に流し込んで成型する機械は大手製菓メーカーに採用されるなど国内シェア８割を獲得しています。韓国ロッテに納めていることもあり、２年前には韓国に現地法人を設立しました。これを機に食品機械事業も含めて海外マーケットの獲得に動きます。韓国は英語が話せる優秀な人材を集めやすいため、韓国を拠点に海外営業を強化します。すでに東南アジアから商談が寄せられています。
日本国内の少子高齢化が進む中、海外を成長エンジンと位置付けて食品機械や製菓機械を大きな商材に育てていきます。
（きよもと・くにお）1967年宮崎県延岡市生まれ。94年日商岩井入社。実父で先代社長の英男氏（2020年逝去）に請われて99年清本鐵工入社。グループ子会社を経て本社営業を担当。2006年取締役製品事業本部長。生産改善、業務改善を進める。10年常務取締役、11年専務取締役延岡支社統括、13年代表取締役専務執行役員。2017年から現職。玉川大学、Case Western Reserve University（米国）卒。