矢野特殊自動車(福岡県粕屋郡)は、冷凍食品と冷蔵食品を同時に輸送できる「2室式」の鉄道コンテナを世界で初めて実用化。東京・有明で開催した東京トラックショーに出品し初披露した。庫内温度をマイナス35℃に保持する大型冷凍車も出品し、低温食品の物流品質向上に向けて提案した。製品開発の意図などを矢野彰一社長に聞いた。
矢野社長
――低温トラック輸送では今や2室式コンテナがスタンダード。
矢野 低温輸送を担う鉄道コンテナは「1室式」しか普及していないのが現状です。そのため、冷凍食品と冷蔵食品を同時に鉄道で輸送するのは難しかった。そこで当社は「2室式」の鉄道コンテナをユーザーの要請に応じて開発に着手し、通称「2エバポレータJR貨物クールコンテナ」の実用化に成功しました。名称にあるエバポレータとは、冷却装置を意味します。1ユニットで2つの異なる温度を厳密に維持し、遠隔監視が可能です。
――鉄道コンテナの長寿化も同時に実現した。
矢野 コンテナの保冷性能は従来、外気と内部の温度差により、内部に発生する微量の結露をコンテナの断熱材が吸収し経年経過で蓄積します。その結果、性能低下を引き起こしていました。そこで今回、水を吸いにくいスチレンフォームとウレタンを組み合わせた「ハイブリッド断熱構造」をJR貨物クールコンテナに採用。経年経過後の保冷性能低下を最小限に抑えることを可能にしました。積荷に優しい免震構造も導入済です。
――鉄道用冷凍コンテナは普及している?
矢野 特定ユーザーとの取り組みが進んでいます。機能も進化しています。
「2エバポレータJR貨物クールコンテナ」
世界初の「2室式」鉄道コンテナを実用化した
――冷凍車の設計・製造の受注状況は。
矢野 東日本大震災の発生以降、4〜5月は開店休業状態でしたが、6月から受注が堅調になってきました。年内は冷凍車の製造予定が多く入っています。全国にユーザーを抱えていますが、地場・九州の低温物流企業との取り組みは特に多い特徴があります。こうした顧客は震災後、輸送距離が伸びています。車両代替受注も増える可能性があります。
――輸送効率をさらに高めた大型冷凍車「H−MAX」、庫内温度をマイナス35℃に保持する大型冷凍車「NEW STANDARD35」も東京トラックショーに出品した。
矢野 「H−MAX」は例えば、25t車シャーシに搭載する冷凍ボックス内高を20cm上げ、冷凍食品を積み込むスペースを広くしました。トラックの高さは限界3.8mに規制されています。そこで冷凍ボックス内高を上げるため、シャーシと地面との間を狭くしました。タイヤ3軸を4軸へと改め、個々のタイヤを小さくし低床を実現しました。低床のため冷凍機ユニットをシャーシ下部ではなく、冷凍ボックス前壁外側に張り出すノーズマウントタイプに変えました。
――庫内温度をマイナス35℃に保持する大型冷凍車「NEW STANDARD35」も冷食業界の注目を集めるはず。
矢野 従来の限界はマイナス25〜30℃で、それ以下に低温設定すると冷凍ボックスが破壊される恐れがあります。そこで地場ユーザーの要請に応え、外板と内板から成るボックスパネルを新たに開発し、マイナス35℃に耐えるものにしました。地場ユーザーの要請が開発の出発点です。九州の顧客満足度を向上させる技術は全国に水平展開できます。今後も技術のパートナーとしては当然のこと、サービスや納期などの対応力を高め、顧客の問題解決に努めていきます。
(やの・しょういち)小松製作所勤務を経て、1993(平成5)年入社。2007年6月から現職。1961(昭和36年)2月生まれ、50歳。福岡県出身。早大大学院卒。