温度コントロール技術で産地に出向く

 福島工業が六次産業化を進める生産者に向け、直接の提案を強化している。そのカギとなるのが「低温スチーマー」。冷却機器に強い同社では珍しい加熱機器がそれだ。

 同社の従来のユーザーは業務用冷凍冷蔵庫を使うホテルや飲食店、あるいは冷凍冷蔵ショーケースを使うスーパーマーケットやコンビニエンスストアが多く、食品の保存という側面で市場を広げてきた。この技術を他に活かせる領域はないかと模索していた。
 そこで関心を持ったのが農産物の産地だった。「消費者に近い“川下”では販路を拡大してきたが、温度を活かした食品の保存では生産者など“川上”も、その延長上にある。逆に今まで接点を持っていなかったことを反省しなければならない」(同社)と考える。
 ユーザーが川上に向けて動き出しているのも理由という。ワタミなどの外食チェーンが農業法人を立ち上げ、近年成果が出始めている。安心安全はもちろん、安定供給も叶えなければならなくなった。その流れにハード面から業界を支えるのは当然かもしれない。

「低温スチーマー」、同社では珍しい加熱機器
スチーム野菜のほか、プリンや茶碗蒸し、食材の下処理
にも活用できる

 「冷却も加熱も“温度コントロール技術”であることには変わりない」(同社)。温度に関わることなら60年以上携わったという自負がある。
 5年ほど前に発売を開始した「業務用低温スチーマー」は、庫内で網カゴをアップダウンさせて上部でスチームする。庫内の上部は蒸気を撹拌せずに作り出す、40〜95℃のスチーム空間で、余分な空気を逃がして低酸素状態を保っている。食材の酸化を最小限に抑えて、食材本来の味を引き出せる。
 ブロッコリーを低温スチーマーで加熱し、ブラストチラーで冷却した場合、ビタミンC含有量は100g中76mgとなり、ボイルして氷水冷却したものに比べて2倍も残るという試験データを得ている。
 こだわった食材の提供をウリにしているレストランや、バックヤードで温野菜として加工している大手スーパー、あるいは焼き魚や揚げ魚の利用ではあるが百貨店などいくつかの導入実績を重ねてきた。しかし、いずれも同社が以前から強い販路を持つ小売店や外食産業であることに変わりない。そこで、さらなる販路を拡大させるため「生産者の直売所などに直接働きかけたい。規格外となった野菜などに付加価値を与えられる力を知ってもらいたい」という。

スチーム野菜
素材を活かし、栄養素を逃がさない

 11月に東京で開催された農産技術の展示会「アグロ・イノベーション」で低温スチーマーを出展し、温野菜などを試食提案した。毎年出展している展示会ではあるが、今回は特に六次産業化をキーワードにして技術情報を提供した。実際にさつまいもを生産している農業者にさつまいものスープを試食提案し、「なかなかおいしく出来ているね」と驚かれたという。
 また、この展示会で会った千葉県の生産者が開催翌週に同社を訪れ、持参した野菜をテストキッチンで加工し、温野菜などを試作した。生産者と機械メーカー、互いが持つノウハウなどを意見交換した。

 同社による生産者への直接の提案はまだ始まって間もない。社内に生産者を担当する専門部隊を設けているわけではないが、全社員が小売店でも、外食店でもない、“産地”を意識するようになったという。得意の温度コントロール技術を“生産者による加工”という、それまでにないステージで発揮できるよう、これからも働きかける。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2013年1月9日号掲載