製菓・製パン、惣菜、冷凍食品など幅広い業種の食品工場を設計、施工している中央設備エンジニアリング。施工技術の提案として、新たに力を注いでいるのが“空間噴霧”だという。複雑な形状をした食品機械の細部にまで、殺菌剤を行き届かせる力を秘めている。
野々村統括部長
――近年だけでも多くの食品工場の設備更新を手掛けている。
野々村 製菓・製パン、惣菜、冷凍食品など、食品の種類を選ばず幅広い実績を残せる大きな理由の一つは、30年以上にわたり食品工場に関わってきた場数により、施工技術をさらに研磨させているためだと思います。もちろん食品メーカーの工場関係者や工務担当者と一緒に検討、相談を重ねていきますが、知恵はユーザーからいただくものでそれを具体的に形として反映していくのが私たちの務めです。
――近年、携わってきた工事事例の傾向は?
野々村 生産ラインを維持しながらの設備更新が増えています。スクラップ&ビルド型の設備更新ではその間に生産が止まってしまい、中小メーカーにとっては死活問題になってしまいます。その厳しい課題にも対応するため、生産ラインをよく理解していなければユーザーが満足する仕事はできません。
――具体的にどのような対応を?
野々村 実際には、ゾーニングと動線計画を最適にすることがポイントです。原材料、梱包材料の受け入れ・保管から製造工程を経て、製品の保管・出荷に至るすべての工程の動線を分析することにより交差汚染を防止し、必要とされるクリーン度を確保します。当然ながら効率的なラインスタッフの動きを見越すことも大切です。
――夏本番。加熱エリアの居住域の温度も改善したいところ。
野々村 食品工場の加熱調理室などの多量火気使用の居室は、夏場かなり高い温度になっています。この問題を克服するには空調設備の力が不可欠です。そこで当社は「置換換気(空調)方式」を提案しています。新鮮な空気を低風量でゆっくりと室内に流すのがポイント。スタッフが活動する辺りに新しい空気を供給します。
――具体的には?
野々村 低温の風は構造体に沿って動くという性質を活かしています。床上や壁に沿って低温の風が漂い、室内の加熱源で暖められた空気は上方へ移動します。スタッフのいるスペースは低温を保ちます。もともと欧州で発達している技術で、ホテルのロビーなどの大空間にも活用され、普及しています。しかし、日本では欧州ほど普及していません。
――日本の食品工場にこそ活躍させたい技術だ。
野々村 この「置換換気方式」を導入した事例に日本の製餡工場があります。製餡工場の作業室(ボイル工程、加熱工程)で蒸気の排熱の効率が悪く、夏期の室内温湿度が非常に高いという過酷な環境でした。「スポット空調吹き出し口を各所に設置しているが、効果がない」というユーザーの問い合わせに対応しました。
製餡工場は通常の業務用の厨房と比べても、かなり大きい釜を扱い、大量の大豆を煮ます。とにかく熱い。大豆を釜に入れる際に使うホイストとレールが上部に施してあるので、フードを備え付けることができません。そこで居住域の空調だけを考える「置換換気方式」が最大限に活かされたわけです。
――生産ラインを維持しながらの設備更新や「置換換気方式」。これ以外にもこのほど、施工技術の1つに新たな提案を加えた。
野々村 安定型次亜塩素酸「ピーズガード」です。縁あって知りえたピーズガード社が開発した除菌・消臭剤です。同社では数年前から販売していましたが、昨年から食品添加物殺菌剤として認可を受け、食品業界への応用がさらに広がりました。無味・無臭で金属を腐食させません。加工食品の鮮度保持や殺菌対策にも役立てられます。
――食品業界に是非紹介したいシステムだ。
野々村 有効成分は次亜塩素酸ナトリウムですが、従来の弱酸性次亜塩素酸水の問題点を克服しました。特殊な製法により弱アルカリ性(PH10.5)に精製したことで、極端な漂白作用も、金属の腐食もありません。また、従来の次亜塩素酸ナトリウムと異なり、発がん物質であるトリハロメンの生成がなく、人体に対する安全度も高い。しかも塩素臭がほとんどしません。
――非腐食性や無臭はユーザーから重宝される。
野々村 食品添加物の塩素をアルカリ水溶液中に安定化させたもので、細菌・ウィルス・バクテリアと接触することで不活性化させます。インフルエンザウイルスだけでなく、ノロウイルス・コロナウイルスなども1分以内に99.9%以上除菌します。京都微生物研究所、畜産生物科学安全研究所・日本食品分析センターなど複数の検査機関が実証しました。
また、今までにない無味・無臭・無脱色・無揮発・非腐食性の特徴があり、さらに成分は全て食品添加物で組成され、皮膚に触れても、口に入っても、目に入っても安全なことを東京食品技術研究所・日本食品分析センターが実証しました。
――様々な研究機関が実証した。
野々村 これまでは除菌・消臭剤としてのみ販売していましたが、昨年から食品添加物・殺菌剤としての認可を受けましたので、食品業界への応用がさらに広がったといえるでしょう。
例えば、水産関係ならば、魚卵製品・干物などの加工段階や、店頭販売するトレイパックの刺身などに使用することで鮮度を保持し、日持ち時間を改善できます。水産物に限らず、野菜・果物の鮮度保持や出荷調整、カット野菜の洗浄、弁当・惣菜の仕上げ段階での殺菌利用など汎用性が広がります。
――ピーズガード社の沖原正宜社長が理事長を務める「東京冷凍空調事業協同組合」が開発した噴霧システム「コールドフォグ」と組み合わせて使用することを薦めている。
野々村 組合は首都圏の空調・冷凍・電気設備会社で組織しており、設備の施工に強いメンバーが集まっています。その組合員が開発したコールドフォグは一流体ノズル方式の噴霧システム。超微細霧の水噴霧により霧の滞空時間が長く、上昇浮遊して、ダスト吸着捕捉効果と気化熱冷却効果、さらに濡れない霧によるすばやい加湿効果を上げます。特徴はノズルにあり、それが高圧噴霧を実現させました。二流体噴霧の1/20という省エネ効果も可能となります。
――この「コールドフォグ」にピーズガードが加わることで相乗効果が期待できる。
野々村 ピーズガードとコールドフォグを組み合わせて使用することで、大空間の除菌と防カビ、消臭の効果を上げることができます。空間噴霧しても塩素ガスを発生させず、アルカリ性(PH9.0±0.5)のため錆を発生させることもありません。超微細霧の水噴霧により霧の滞空時間が長く、上昇浮遊して、ダスト吸着捕捉効果と気化熱冷却効果、さらに濡れない霧によるすばやい加湿効果を上げます。濡れない霧を0〜2℃の冷蔵庫の中に噴霧して簡単にRH95〜100%を実現しています。
――食品業界への拡販、これからが本番だ。
野々村 腐食性が強くないので厨房機器や空調機器を傷めないことから、食品業界にとって待ち遠しかったシステムだと思います。引き合いも着実に増えています。喫煙室や臭いのある室内空間の消臭・除菌などにも効果的で、従来の主流だったアルコール消毒剤や次亜塩素酸ナトリウムに代わる理想的な食品添加物・殺菌剤として定着させたいですね。
しかし、殺菌剤や噴霧システムだけを一人歩きさせないよう配慮しています。説明なきところに最良のものは生み出せません。
そこで当社が携わってきた様々な現場での事例が生きてくると思います。ある水産練り製品メーカーではトンネル式フリーザーやスパイラルフリーザーなど、複雑な形状をした食品機械の内部の汚れに悩んでいました。しかし、人の手の届きにくいところに細かい霧が行き届いて殺菌や防カビに驚くほどの効果を上げることができるようになりました。このように現場で培った経験が当社の技術者1人ひとりのスキルの向上につながり、ユーザーへの提案力となっています。それを形に反映していき、確かな施工実績として今後も積み重ねていきたいですね。