サントリー健康科学研究所は国立長寿医療研究センター・NILS−LSA活用研究室の疫学データの解析により、エイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)を摂取するとうつ傾向リスクが低下することを確認した。
精神疾患の患者数は近年大幅に増加しており、うつ病は世界的な社会問題になっている。特に社会の中核層である中高年者のうつ病罹患は社会的な影響が大きく、高齢化の進む先進諸国では、早急に解決すべき課題になっている。厚生労働省は2013年からうつ病を含む精神疾患を「5大疾病」の1つとして指定した。
これまで、魚介類に多く含まれるEPA・DHAが神経細胞の保護や膜流動性の改善作用を介して、抗うつ作用を示す可能性が示唆されてきた。しかし、うつ病患者への有効性についての報告がほとんどであり、うつ傾向のない国内の中高年者での予防効果はわからなかった。
サントリー健康科学研究所では長年「脳の脂質栄養と加齢」について研究しており、EPA・DHA摂取による抑うつリスク低下の可能性を考え、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」(NILS−LSA)のデータをもとに縦断的に解析した。
NILS−LSAの参加者のうち、最初の参加時にうつ傾向や認知症の既往がなく、解析に必要な項目が揃っている40歳以上の男女2348名を対象に、平均で約8年間追跡してEPA・DHA摂取量とうつ傾向リスクとの関係を検証した。
うつ傾向発生の判断には、抑うつ状態自己評価尺度(CES−D) の質問票を用い、EPA・DHA摂取量は、3日間の食事秤量記録調査 から個人の1日あたりの摂取量を算出し、EPAとDHAの摂取量をもとにそれぞれ少・中・多の3グループに分けた。
摂取量の一番少ないグループのうつ傾向発生リスクを1とした場合の摂取量グループ別のリスクを示し、対象者の性別、年齢、総摂取エネルギー量なども考慮して解析した。
多グループのうつ傾向発生のリスクは、少グループと比べて、EPAは約26%、DHAは約21%低かった。EPA・DHA摂取量の対象者全体での中央値は、各々244mg、470mgで、国内の同年代の集団を対象にした調査報告と同程度の値だった。
日本の一般的な中高年を対象にした疫学研究解析により、EPA・DHAを多く摂取すると、うつ傾向に対して予防効果があると分かった。
研究の成果は山梨県で1月25〜27日行われた日本疫学会で発表した。