阿部万寿雄の「食の安全」と「ものつくり」 −18−
食品工場の運営ノウハウ(4)食品工場経営者の改革と行動

(1)食の安全・品質を重視した企業風土創り
 消費者、生活者の食に対する最大の関心事である安全な食品を供給すること、品質アップと安定化を目指し、企業は差別化を徹底的に掘り下げるべき。
 例えば、HACCP、ISO9001、5S運動は必須であり、経営者や企業幹部は自社工場への導入を実践することが求められている。
 中国・東南アジアの食品会社(輸出企業)の工場は最低でもHACCP、ISO9001の認定を受けており、またトップに理解があり、品質管理の担当組織を持っている。

(2)商品開発のスピードアップ
 経営者の考えを強力にトップダウンすることと、実務層・現場からのボトムアップにより、企業が蓄積した得意分野や技術とアイデアで顧客に密着し、迅速な対応を推進する。
 現存しているロングセラー商品、例えばローソンの「からあげ」やニチレイフーズの「ミニハンバーグ」などは経営者の理解と、営業や生産実務者、現場社員のボトムアップによって開発され、発売後は、その都度時代のニーズに合わせてタイムリーに改良し、人気を持続している。

(3)徹底したコストダウン
 経営者が先頭に立ち明確で大きな目標を掲げる。例えば、原材料費の少なくとも2ケタのコストダウンに挑戦する。単に工場の現場に任せることのないよう、会社全体で計画的に取り組む必要がある。
 よくあることは、コストダウンに取り組む場合、事務部門は別で、現場がやればよいという考え方だ。
 しかし、ある企業では管理部門の部長が5S活動に積極的に参加し、事務用品のムダ排除運動を実施した。各自の引き出しには必要最小限の事務用品だけを置き、2年間新規購入をしなかった。このムダ取り活動が全社を動かすことになり、製造現場の活動が加速し、所期の目的を達成したという実例もある。

(4)人材の育成
 多くの中小の食品企業では後継者育成に頭を悩ましている。
 そこで大事なのは、第一に経営者が日常の経営に自信を持って、魅力ある運営を実践しているかどうか。後継者はトップの背中を常に見ているのだ。
 また、女性社員を戦力化することも大事だ。「うちの会社は中堅社員が育たないので困っている」とよく聞く。しかし、都内の中堅食品商社では主要なポストを全て女性が務め、社員も8割が女性。彼女らは仕入れ、生産(海外生産)、品質管理、販売を担当しており、海外出張や得意先への訪問など、積極的にきめ細かい活動を行ない、顧客から厚い信頼を得ている。
 業績も同業他社の売上げ低下や倒産が多発する中で、同社はすこぶる良好に推移している。これもトップによる社員への信頼と厳しい指導と励ましにある。