電子嗅覚・味覚システムを手がけるアルファ・モス・ジャパンの吉田GMは「官能評価・消費者試験に機器分析を組み合わせることで商品開発時に、競合品との比較に役立つ」と語る。「しかし、人の評価があっての機器。偏った機械至上主義は誤解を招く」とも。むしろ、最終製品の品質の一貫性管理、クレーム品の客観的評価に活用をと呼びかけている。
吉田浩一ゼネラルマネージャー
――電子嗅覚・味覚システムで世界的シェアのあるアルファ・モス社(フランス)の100%出資子会社として、昨年4月に営業を開始した。
吉田 プライムテックのアナリティカルサイエンス事業部で手がけていた分析機器の輸入販売などの事業を承継する形で誕生しました。プライムテックは医用電子機器、実験動物用機器などメディカルな分野が中心で、その中の1つに分析事業部がありました。アルファ・モス社は感覚に関わる分析事業がメインで、日本の市場にさらに本腰を入れる姿勢での承継です。
――分析事業をメインで展開。どのような用途が?
吉田 分析する食品の種類は幅広く、飲料、乳製品、あるいは醤油のような調味料など様々です。大手食品メーカーの研究所には多く導入されています。中小の食品メーカーでも分析機器に投資するのが日本の特徴で、フランスの本部でも驚いています。アルファ・モス社製の官能分析機器に関して言えば、アメリカが一番のマーケット、次いで日本です。国にもよりますが、ヨーロッパは人の感覚、官能評価を重視しています。
――イメージ的にヨーロッパの新しい技術の開発は進んでいると思った。
吉田 ヨーロッパは新しいものを発想し、それを商品化する土台はできています。しかし、ユーザーがそれを受け入れるかどうかとなると、話は別になってしまいます。機器が本国で売れている、とは必ずしも言えません。
――電子嗅覚・味覚システムに対する日本のユーザーの反応は?
吉田 ポジティブな姿勢です。長くお付き合いしているユーザーは機械の良し悪しを理解しています。しかし、分析システムの導入をこれから考えている一部のメーカーには、機械を過大評価、過剰評価する傾向が見受けられるので、導入前には念入りに機械でできることと、できないことを明らかにしています。においや味の検出は、まだまだファジーな部分が多い分野ですが、なるべく科学的な視点、時には人の行動学を取り入れ、導入した後で「イメージと違った」という誤解をなくしたいと考えています。アルファ・モス製品に多くの期待を寄せられるのは大変嬉しいのですが、あくまで知覚を評価する分析システムの位置づけは官能評価を補うもの、サポートするものであり、人の評価を抜くものでもなければ、100%置き換えられるものでもありません。機器がいきなり「おいしい」、「甘い」、「辛い」と話すわけではなく、それ相応の相関づけを必要とするからです。
――機器への期待にギャップがある。
吉田 人の知覚に関する理解が乏しく、「官能評価より機器分析を」という認識にギャップがあるのは感じます。食品メーカー内部での官能評価のポジションが低いことも原因かもしれません。日本では、大手食品、飲料メーカーでさえ、官能評価という専門職は少なく、他の仕事と並行して担当しています。品質管理についても同様です。海外では官能評価自体が仕事であると位置づけており、専門職として配置しています。
――偏った機械至上主義になりかねない。
吉田 だからこそ、そういう場面で評価(官能評価)したデータは信用ならないから、機械化したいとなります。しかし、発想は逆であるべきです。人はきちんとやるべきことはやる。それでも官能評価し続けることは労力を使う、コストもかかる大変な作業であるから、「サポートする形」で機械化する、という順序のほうが正しいと思うのです。
――以前、セミナーに参加し分析システムについて学んだ。分布図のようなものがあり、製品の位置を示し、他の商品との位置関係を把握することだったが。
吉田 センサー分析による自社の既存品や他社の競合品をポジショニング、マッピングすることで市場解析や新製品の位置づけの確認や、ターゲット商品との比較を可視化させます。
例えば、好ましい味、においを目標とする商品があるとします。その近づけたいものとの位置関係を明確にさせます。官能評価に加え、センサー結果による客観的、視覚的表現がバイヤーにプレゼンする際など有効な参考資料となります。“違いがある”という解釈は機器だけでできますが、“何が違う”のかは機器だけでは十分な判断がつきかねます。そのとき、人の評価が前提としてあれば、分布図の説明にも説得力がでるのです。
――においや味の特徴そのものよりも「違い」について把握できればよい。客観的に「違い」を可視化したわけだ。
吉田 私たちは予め、この機器に投資するリターンを素早く得るには「品質管理」の用途が向いていると提案しています。研究所で商品開発する際にも有効ですが、工場の入出荷時に使える品質管理、プロセス管理の用途であれば、比較的早く実用化することができます。実は日本以外のユーザーの七〜八割はこの品質管理型として使用しています。しかし興味深いことに、日本ではまったく逆の傾向で、商品開発へのニーズが多いようです。
――品質管理の用途というと?
吉田 出荷した商品に何か問題があった際、参考の資料となります。例えば、「異臭がする」というクレームを受けたとします。受けたメーカー側は報告書を作成するわけですが、「におい」は感覚的なものなので、余程顕著な違いがない限り、「これは異臭です」と明確に報告することはできません。あいまいな部分はあいまいな対応で済まされてしまうこともあります。
――「におい」の数値化は難しい。
吉田 そうした状況で機器はメリットを発揮します。いつも基準のものがあって、どれくらいばらついているかがわかる、客観的に可視化しているわけです。出荷する前に異常に気づくことで回収騒ぎのようなトラブルを未然に防ぎます。また、取引先との管理基準を明確にすることにもなります。それは食品にかぎらず、樹脂、材料、容器などにおいがあるものにも適用できます。
――今後の展開は?
吉田 食品業界は商品開発が盛んです。日本ほど商品のライフサイクルが短い国はありません。そうした商品開発の方向性を決定する場面で使えるよう、機器ができることや成功事例をさらに啓発、紹介していきたいですね。
アルファ・モスは、世界でも唯一、味とにおいのデータを統合できるセンサーシステムを提供し、さらに官能評価の受託試験やコンサルティングも手がけています。機器と官能評価、消費者し好データとのマッチングを推進し、新しいものの発見に役立てられるはずです。一緒に盛り上げていきましょう。