加熱撹拌機の大手メーカー、カジワラの梶原徳二会長は食品機械業界の重鎮。“喜寿”を超えても、そのバイタリティはますます盛ん。食品メーカーと機械メーカーの今後の方向性、職業意識など、新年に当たり存分に語ってもらった。
梶原 徳二会長
――昨年を振り返って。
梶原 東日本大震災では、私たちのユーザーも大変な被害に遭われました。私たちも少しでもお役に立ちたいと、カジワラキッチンサプライで扱っている家庭用のガスコンロを150台ほど、ガスボンベとともに、被災地のユーザーに配りました。ユーザーは煮炊きが十分にできない状態でしたので、大変喜んでいただきました。阪神大震災のときにも供給して喜んでいただきましたので、今回もすぐに手配しました。
一方で当社の仙台営業所も建物が倒壊するなど、大変な被害を受けました。敷地は200坪ほどありましたが、その後、倉庫などを撤去し、事務所は建て直し、再始動しました。社員の住宅も、社屋と一緒に建ててあります。
――昨年は激動の1年だった。その中で“絆”を改めて思い知った、という人が多い。
梶原 日頃の繋がりですね。“商売”、それに“友情”を縁として繋がりがあった人のために、何か少しでも役に立ちたいと思った1年でした。
私も東北のユーザーのもとを訪問しましたが、石巻のある工場では当社の機械が、幸いにもほとんど壊れていませんでした。3月中に引き取ってすぐに修理してお届けし、大変喜ばれました。お客様はその後、他の工場へ持っていき、配置替えしたようです。
――精密機械は海水を浴びると不良になるが。
梶原 当社の製品はオールステンレスで、“ここまで必要か”と言われるくらい丈夫に作ってあります。それが、幸いしたのかもしれません。当社の社員も気が効いていて、運送業者に頼んで水2tをトラックで運んでもらい、真水を使って現地で機械を洗浄したということもありました。
――機械といえば、新機種「コク味あんユニット」に注目が集まっているが。
梶原 2年ほど前から展示会で出品し、提案してきましたが、昨年からいよいよ導入が始まりました。ある菓子の老舗のユーザーがどら焼きに採用しました。皆さんにこの「新しいあん」を実用レベルで味わっていただけるようになりました。
――ぜひ味わってみたい。
梶原 このユニットは餡粒子を壊すことなく、小豆の皮を微細に粉砕して、まろやかなペースト状の餡(コク味あん)に仕上げる装置です。皮の廃棄費用がなくなるなどのメリットがあるだけでなく、豆煮から渋切り・本炊き・蜜漬け・粉砕・餡煉りまでの全工程を1つのユニットで行なうことができ、イニシャルコストが大幅に削減できます。
“コク味あん”は食物繊維が豊富で健康によく、エコロジーな商品作りに役立てると思っています。また差別化にもつながります。昨年暮れには、「JAPAN PACK AWARD2011」 で“審査委員長賞”を、平成23年度の「関東地方発明表彰」では“東京都知事賞”を受賞しましたが、粒餡のように風味が豊かで、コシ餡のような滑らかさを持つ新しい餡を生み出したことが評価されたと思います。
――会長は現在78歳。今もなお精力的に活動されている。
梶原 先日もロータリークラブから依頼があり、講演しました。ロータリーの精神・コアとなるものは「職業奉仕」。ロータリアンは経済的に地位のある人たちが1つの奉仕団体を作って、世の中のために貢献すると思われていますが、単に社会奉仕と言っても、いくらでもあります。赤十字の活動もそうでしょう。
しかし、ロータリーの本質は“職業”を意識した人たちが集まって、自分の職業、所属する職種の道徳的水準を高めることが大きなテーマとなっています。私でいえば、食品機械のリーダーとして自覚し、業界の倫理水準、品位を高めることにあります。
100年前、シカゴでロータリーが発足したとき、急激な経済成長とともに移民などで溢れるほど増加した人口と、それによる軋轢からの社会問題が深刻化していました。職業のモラルも崩れていました。それを何とかしようと立ち上がり、お互いを励まし合ったのです。
――職業のモラルを考える。今でも通じることだ。
梶原 世の中のために奉仕するには業界そのものも品位を高めたりする以外に、自分が業界の中で磨いた腕を発揮することも大事です。例えばゼネコンでいえば、建設の力で、丈夫な建物を造ること。私たち食品機械ならば、技術を遺憾なく発揮して、おいしい食づくりを下支えすることだと思います。
しかし、単に一生懸命にやるのではなく、どういうふうにやるのかを考えなければなりません。
嘘偽りない商売をすること、極端な駆け引きをして仲間の足をひっぱらないこと、製品を開発しながら、堂々と自分のいいところをPRすること――。当たり前のことですが、日々の職業生活では忘れがちとなるものです。ロータリーをきっかけに「職業奉仕」について意識していきたいですね。
――会長が意識する「職業奉仕」の考えを伺うことができた。
梶原 ロータリーが発足するはるか前の江戸時代、日本にもこの考え方がありました。石田梅岩の「石門心学」がそれです。これは、商人の基本、商売の基本を説いたもの。武士は主君に忠節を持って仕えて俸禄をもらうように、商人はお客さんに対し、真心を持って仕えるから禄をもらえます。あくまでもお客さんの納得がなければならないのです。
――資本主義、企業の精神、“ものづくり”など近代の生産技術、それを動かす経営論理は海外から入ってきたと思われがちだ。
梶原 そうではありません。日本には江戸時代から和算があり基礎ができていました。良質な労働力もありました。識字率の高さも世界に類を見ません。それがあったからこそ、新しい時代への原動力となりえたのです。
――新年の方向性を聞きたい。
梶原 ミュンヘンのイバ展、ケルンのプロスイーツ展など海外の展示会に出展します。欧州に関しては、マーケットを模索しているところです。欧州には高速の撹拌機はあっても、熱を加え、掻き取りがきれいにでき、低速で良く回る機械はありません。チョコレート用にはあっても、餡のように粘りのあるものを焦がさないようにする撹拌機はないということです。
欧州で餡用に使わなくても、きっと何か別の方法に使えるはずです。展示会に出品すれば、来場者がそれを見ていて、いいアイデアが浮かぶもの。こちらもそれを色々と聞き出して、マーケットを把握していきたいですね。
チャレンジしていかなくちゃ。マーケットがあるから、そこに行くのではなく、マーケットこそ開拓ですよ。
――力強い言葉だ。
梶原 海外は飛び込んでみないとわかりません。当社の撹拌機「Σ(シグマ)」がそうです。いままでの乳化機には加熱したり、冷却したりするという私たちが得意とする機能がありませんでした。加熱撹拌に乳化機能をつけたのがΣです。乳化の技術が優れているのは欧州。欧州の機械メーカーと提携して取り付けました。
その際、我々も要求軸がありました。欧州側にも要求軸があります。このやりとりにより、お互いによい刺激となり、勉強となりました。“向こうでできないものは、我々で造る”という意気込みも生まれてきます。
――食品と食品機械業界は今後どうなるか。
梶原 オープンコラボ、オープンイノベーションがますます活発となることでしょう。当社で言えば、カスタマーセンターが相変わらず好評です。ユーザーが悩んでいたところを我々機械メーカーの立場から助言できます。原材料の投入を逆にしてみるということも、ユーザーは気付かないこともありえます。
その経験により、私たちにも知識が蓄積します。アドバイスできる能力はユーザーによって育てられています。食品メーカーも、食品機械メーカーも“最先端を歩いていこう”という気持ちを、ともに持ち続けていきたいですね。
――昨年は国内の大きな展示会に3回も出展した。今年も忙しくなりそうだ。
梶原 まじめに機械の説明をして、来ていただいた方に成果をみてもらう以外ありません。展示会は広い意味での交際費です。業界全体に対するご奉仕です。
展示会はすぐに結果となって表れることはありません。長期投資ということだけでなく、実物を見て判断してもらういい機会です。目先のそろばんだけはじいていてはだめ。これは私の考えですが、社長たちも受け継いでくれています。
新商品を開発するための投資をするには利益を生み出さなければいけません。利益を上げない企業は存続できません。それならば、なぜ利益をあげるのか――。
それはお客さんのために新しいものを開発し、新しい便益を提供することです。これは一種の奉仕です。それもお客さんに納得してもらうよう、“いい製品”を出していかなければなりません。難しいことですね。奉仕、これは企業の信用だと思います。
――最後に今年を表す一言をいただきたい。
梶原 「随処に主と作(な)る」。昨年は震災など本当にいろいろなことがありました。自分がどう立っていくかを改めて感じた年でした。
“どんなところにいても主体性を持ってやれ。所詮自分なんだ”。そう感じてなりません。日本という国も同じで、国際社会でもそうです。状況判断をして、そのうえで主体性を持って動いていきたいですね。