吉野家の東京工場は様々な業務の見直し、更新作業の途上にある。牛肉の熟成工程変更に伴うラインの見直しは、肉の品質を向上するだけでなく、スタッフが働きやすい環境を整備するのも目的だった。
従来のオペレーションでは、肉を一時的に保管するステンレス製の棚に満載すると重量は400kg近くになっていた。これを次の工程に運ぶ際、2人のスタッフで運んでいたが、棚は高さがあり、転倒する危険性もあった。
今回のラインの見直しを機に、100kg単位で運べるコンテナを使用、労働負荷の低減を図った。
また、東京工場はハンディキャッパーや高齢者の雇用を推進している。現在、470名近くの総スタッフのうち、90名近くのハンディキャッパーが働いている。
以前までの肉のスライス工程で採用していた1人完結方式では、スライサーから落ちてきた肉を抱え、バットに移すなど一連の処理は難易度が高く、限られた人しか担当することができなかった。しかし、ベルトコンベアと連動させた新スライスラインでは、分業が可能になった。練度が低くても、仕事ができるポジションを多く確保することで、ハンディキャッパーや高齢者の安定雇用を図った。
従来の「1人完結方式」のスライス工程、この工程からライン方式に移行している
スタッフの確保が以前よりも厳しくなっているという東京工場。こうした面も、高齢者のスタッフを採用することは重要。彼らに期待している点は他にもある。それは今まで培ってきた“経験”そのもの。
現在、工場で働いている高齢者スタッフの多くは精肉現場経験者がほとんど。肉に関する知識や経験は、若い社員やスタッフに向け技術の伝承となる。刺激にもなる。「長年、肉を見続けてきた人から学ぶ知識は財産です」と平田センター長。それは、今回のライン更新の中心でもある、スライスの厚みや赤身率、軟骨など異物の有無を厳しくチェックする検品ラインで活かされているに違いない。
「今回の牛肉の改良で、“熟成”を謳って声高にお客様に呼びかけました。お客様はおいしくなった牛丼を期待してお店に来ていただいていると思います。スタッフの確保ができないという工場側の都合で生産できないということは絶対に避けなければなりません。供給責任を果たすのが私たちの務め」と平田センター長は強調する。
また、「自信を持って提供する牛丼に軟骨などの異物があっては、その期待を裏切ることになります」(平田センター長)。そのため、新検品ラインは従来の7割ほどのスピードに落として、異物などを見逃さないよう万全の体制で臨んでいる。処理量は以前に比べ多少落ちるが、「間違いだけは起したくありません。立ち上げ当初は半分のスピードから始め、徐々に7割ほどまで上げていきました。スタッフも日々成長しています。お客様の期待に応えるよう、スタッフ1人1人が自覚して動いているのが何より嬉しいですね」。平田センター長は目を輝かせている。
ベルトコンベアでの検品ライン、検品の“目”を日々養っている