自社でIoT構築、食品工場の課題解決へ

 ワイヤーベルトの専門メーカー、ケイズベルテックはIT会社を1月グループ化し、これに合わせて本社に制御ITシステム事業部を設置する。機械や電気制御、ITを融合させたIoT(Internet of Things=モノのインターネット)を自社内で構築し、食品工場向けに提案する。業容拡大を見越して本社の隣接地に土地を取得、第2工場を建設する。パラレルリンクロボットの開発にも着手している。

            里薗社長

 急ピッチで進めている新展開について里薗勝成社長は「自前のIOTによる食品工場向け提案やパラレルリンクロボットの開発、工場新設。これらはそれぞれが密接に結びついている」と説明する。
 大手企業が活発に開発を進める中、ロボット自体を手がける中小企業は限られている。しかし、近年は中小企業がそういったロボットを購入し、制御系など周辺を学んで、生産現場のロボット化を提案し始めていることを挙げ、「当社でも“やらねば”という機運が高まっています。ただ、専業メーカーからロボットを購入するか、自分たちで開発するか――は要検討なのですが、そこは“モノづくり”たるメーカーの心意気。自分たちで一から開発し、仕組みを試行錯誤し、完成に近づけていく。それが成長に繋がるのではないかと思っています。製造部のメンバーも“買うのは結構。しかし、自分たちでやってこそ”と意欲に燃えています」と打ち明ける。

 パラレルリンクロボは小物製品や部品の搬送、整列、箱詰め作業を中心に、製造現場で導入が進んでいる。当初、パラレルリンクを製造しているメーカーは欧州のABB社など数社に限られ、しかもどのメーカーもABB社が持っている特許をもとに製造していた。台数も多くは製造しておらず、海外メーカーは日本向けの販路に力を注いでいなかった。
 しかし、2009年にその特許が期限を迎えたのを機に、ファナックや安川電機など多くのメーカーが開発に着手しはじめ、普及を後押しした。
 パラレルリンクロボットが活躍する、最も伸びしろがある産業は何か――。それは食品工場だった。
 ここ数年でロボット専業メーカー自身が食品工場向けに積極的に提案している。同時に、それら専業メーカーの多くは“ロボットのみ”を提供し、その他の制御系やボディ(いわゆるドンガラ)などは他のメーカーに委ねることが主流になっている。従来から食品工場に関連が深いメーカーがそのロボットを購入し、制御系を学んでシステムを完成させる。これが食品工場のロボット化に拍車をかけている。
 ケイズベルテックもその渦中にあった。「今後の勉強のためにも、一からパラレルリンクロボットを手がけます」と里薗社長。「長くお付き合いのある食品メーカーからも、ロボット化はできないかという要請がありました。自社開発品の第1号をそのメーカーに納入できればうれしいですね」と笑みを浮かべる。

ITの力も自社内に

 パラレルリンクロボットを十二分に活躍させるには、電気制御に強くなければならない。しかし、これからは電気制御だけでなく、それを遠隔で監視したり、操作するなど現場にいなくても、データが本部に送られる、チェックできるような仕組みが必要。「これはITの世界ですね」(里薗社長)。
 電波を発するような3Gモジュールを機械に取り付けて、そこから社内のネットワークをつないで、外部に発信する環境が必要になってくるという。IT化への整備である。
 工場で動いているのは機械そのもので、これが基本になる。その機械を思うように動かすのは電気制御の力。今まではこの力で工場を動かすことができた。「今後は、電気制御で動いてきたときのトラブルを把握することや、生産量、歩留まり量、電気量などのデータを蓄積していく時代となりました。そのデータを管理するにはIT業界の力がないと叶いません」という。
 今後はITにも強くなければならない――。そのため、この1月からIT会社をグループ化する。その社員の一部がケイズベルテックのメンバーとして加わる。同社はそれまで、ワイヤーベルト製造事業部とシステム製造事業部の2つの製造部門に分かれていたが、これを機に“制御ITシステム事業部”を新設する。
 「機械、電気制御、IT。これらを融合させたIoTを構築します。多くの機械メーカーは電気制御まで自社で抱えていますが、IoTを含めたのは珍しい。大手企業でも自社内に組織しているのはまだ少ないはずです。当社は小規模ではありますが、あくまでも自社でやってみたい」。こだわりは譲れない。
 「2016年のFOOMAではソフトも披露したいですね。今構想を練っている最中です。今までのように、ベルトやシステムだけを展示するだけではなく、ロボットを加えたり、電気制御でコントロールして増速や減速を指示する“ピッチ等間隔化コンベア”などを紹介できればと思っています。コンピュータによる食品工場の課題解決のソフトも計画中です」。可能性は広がるばかりだ。
 業容拡大で手狭になりつつあった本社に併設している製造現場。新事業部も加わることで、その対応が急務になっていた。
 これを機に、本社の隣接地に土地を取得、第2工場を建設する。この余力を活かして、本社工場では主力のワイヤーベルト事業部の機能を増設、従来設置できなかった検査機器なども導入しようと計画している。新工場は5月着工、16年末の完成を予定している。

 急ピッチで進めている新展開。里薗社長は「当然、主力であるワイヤーベルトや搬送システムはまだまだ伸ばしていかなければなりません。ユーザーが望んでいるクオリティの製品を具現化するための研究開発に終わりはありません。それに加えて電気制御やITを駆使して、次世代型の、高機能なオートメーションラインの構築を目指しています。その中の新しいアイテムとしてロボットがあります。本業を大事にしつつ、その本業を伸ばしていくためには、新しい技術を導入しなければなりません。2016年の“ケイズベルテック”にどうぞご期待ください」と夢を広げている。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2016年1月6日号掲載