冷凍機業界の旗手、ビッグデータ活用の構想を描く
デイブレイク�蝓‖緝充萃�役社長 木下昌之氏（下）
木下社長
デイブレイク（東京都品川区）は特殊冷凍機を軸にした冷凍ビジネスのソリューション事業を展開している。コロナ禍を追い風に事業は急成長しているが、木下社長の視線はすでに海外に向いている。マイクロソフト社と手を組み、世界中の特殊冷凍機からデータを収集して、冷凍加工の分析やノウハウ共有に活用する計画を進めている。木下社長は「ユーザー企業と共に成長できる仕組みをつくる」と意欲を示す。
――特殊冷凍機の市場規模をどうみる？
木下 国内の冷凍機市場は全体で2000億円程度とみており、そのうち特殊冷凍機・急速冷凍機の市場は100億円ぐらいと分析します。当社は市場の７割獲得をめざしており、５年以内に達成するためのロードマップを作製しました。
一方で国内市場の成長は100億円が限界とみており、海外展開も見据えて準備を進めています。
――海外はどこがターゲット？
木下 自社開発の特殊冷凍機「アートロックフリーザー」はもともと欧米市場を視野に開発しています。
これまでも（特殊冷凍機の専門商社として）既存メーカーの冷凍機をアメリカ、カナダ、ロシア、モンゴル、バングラデシュなど海外10カ国に販売しており、海外との取引実績はあります。ただ、海外に冷凍機を船便で運ぶと末端価格が日本の1.5倍に跳ね上がる。そのため「アートロックフリーザー」については、従来とは異なる方法で販売します。
――どのような方法？
木下 海外で生産する計画をアジア圏のメーカーと進めています。外国製のパーツを使い、海外仕様の設計にします。外国製のパーツに我々の構造設計を落とし込むため、技術力が必要になりますが、外国製の部品を使い、海外でつくるほうがアフターメンテナンスに対応しやすい。海外市場向けに「テック体制」と「セールス体制」を構築し、2023年度から展開していく予定です。
――セールス体制の強化はどうする？
木下 代理店方式を考えていますが、現地の企業と単に代理店契約を結んでも、おそらく年間100台も売れないでしょう。
我々は現在、７カ月で200台売っています。200台売るためにはセールス力と冷凍機の活用ノウハウの提供が必要で、代理店も同じようにできることが重要です。そこで、ノウハウを共有できる仕組みづくりをマイクロソフト社と進めています。
スタイリッシュなデザインが特徴の「アートロックフリーザー」、右２台がエアブラスト、
左端はリキッドタイプ
マイクロソフト社が先進技術を提供
――どのような仕組み？
木下 マイクロソフト社のＭＲ（複合現実）技術を活用します。ディスプレイを通して空間をスクリーン化し、デジタルコンテンツの操作を可能にする技術です。これによって海外代理店ともセールスからコンサル、機械設置、メンテナンスまでのノウハウを共有することが可能になります。我々と同じクオリティのサービスを提供できるようになります。
――マイクロソフトと協業できた理由は？
木下 当社はマイクロソフト社のスタートアップ支援プログラム「Microsoft for Startups」にこのほど採択されました。マイクロソフト社から提供されるリソースやビジネス支援を活用し、「アートロックフリーザー」にＩｏＴシステムを実装します。
冷凍庫内の温度や食材の重量データ、さらに映像のモニタリングデータを収集し、冷凍の時間軸や庫内に投入できる食材の量などをビッグデータ化します。
各種センサーを「アートロックフリーザー」に組み込むことで、食材がどのように凍結するのか、どれぐらいの時間で固まるのかなどのデータを蓄積します。海外からも稼働データを吸い上げて分析に活用します。
ＡＩ×ビッグデータで高品質を実現
――顧客にはどのようなメリットがある？
木下 お客様の多くは冷凍機をうまく使えません。食材が何分で固まるのか、冷凍庫にどれぐらいの量を投入すればいいのかわからない。そこで、（ビッグデータ分析に基づく）ＡＩ自動運転モードを搭載すれば、高品質な冷凍食品を簡単につくることができます。これまで経験則や感覚に頼っていたのが、ボタン１つで誰でもつくれるようになります。
さらに、ＭＲ技術を活用して、冷凍オペレーションのリモート設計（工場レイアウトや工程の設計）や、リモートメンテナンスのサービス開発も計画しています。
――事業スケールが大きい。
木下 確かにＩｏＴシステムへの投資はいまの我々の規模からすれば分不相応かもしれませんが、将来、高品質な冷凍食品を誰でも簡単に作らないといけない時代がくるはず。そのためのプラットフォームを今から準備しようというのがデイブレイクの考え方です。
目先の利益を追い求めるよりも、長期的視点に立ってユーザー企業と共に成長できる、儲けられる仕組みをつくることが重要です。
今年の「FOOMA JAPAN2022」に初出展、特殊冷凍機とともに冷凍加工ソリューション事
業をＰＲした
（きのした・まさゆき）1978年生まれ。神奈川県横須賀市で70年近く続く老舗冷凍機メーカーの３代目として生まれる。施工管理士として父親の会社に勤め、その後専務として支えるも、東南アジア旅行で露店に並ぶ大量のフルーツの売れ残りが廃棄される実情を知り、フードロス問題に関心を持つ。2013年デイブレイク創業。数々の現場で特殊冷凍ソリューションを提供。2019年３月には規格外の果物を活用したフローズンフルーツ「HenoHeno」を発売、ナチュラルローソンなどに採用される。サステナブルフードの成功モデルとしてマスコミなどに広く取り上げられる。