のり佃煮の老舗企業が「アレ」を応援
自由な発想でファン層広げる
ブンセン�蝓‖緝充萃�役社長 田中智樹氏（上）
田中社長
のり佃煮の「アラ！」や塩ふき昆布の「塩っぺ」などのロングセラー商品を多数生み出してきたブンセン（兵庫県たつの市）は、確かな品質とそのユニークな商品名で西日本エリアに多くのファンを広げてきた。今年３月には関西のテレビ局とのコラボ企画で「アラ！」ならぬ「アレ！」を発売した。ねらいは３月31日のプロ野球開幕戦。ファンみんなで「アレ」を応援するためという。田中社長は「自由な発想で積極的に動くことが創業以来の根本方針」と語る。
――のり佃煮の「アラ！」は1961年から売れ続けているロングセラー商品だ。
田中 2021年におかげさまで発売60周年を迎えました。これを記念し３月31日を「アラ！の日」として登録しました。日本記念日協会認定です。
――なぜ３月31日？
田中 「アラ！」を数字に見立てると331に見えませんか？ 理由はほかにもあります。４月から気分を新たに「アラ！」を食べて新年度を迎えましょう、という思いを込めました。毎年、記念日に合わせて様々な企画を実施していきます。今年は関西ローカル局のサンテレビと共同企画を進め、商品名を「アレ！」にして数量限定で売り出しました。
――なぜ「アレ」？
田中 阪神タイガースで今年から指揮をとる岡田彰布監督は「選手が意識しないように“優勝”という言葉は使わない」と断言し、常々優勝を「アレ」と表現しています。これがファンの間に広がり、2005年以来の「アレ」をめざして応援しています。今年の流行語大賞、関西は断トツで「アレ」でしょう。「アレ」は「アラ」と語呂が似ており、商品名にしても違和感はありません。パッケージのデザインは勝利を呼ぶ虎模様です。
――コラボの相手がサンテレビの理由は？
田中 サンテレビは野球の試合を最後まで完全中継することで知られています。ほかの番組を飛ばしてでも阪神戦の中継を優先する。関西では「サンテレビ＝阪神タイガース」というイメージが定着しており、同じ兵庫県の企業同士ということもあり、共同企画には最適です。今回はマスコットキャラクターの「おっ！サン」を使ったＣＭまで作ってくれました。
共同企画の「アレ！」、スパウト型の10パック入り（左、
税込4200円）が売れているという。商品コピーの「勝
利を呼ぶのり佃煮」がファンの心をくすぐる
スパウト型の10パック入りが売れる理由
――セールスの手ごたえはどう？
田中 開幕に合わせて３月中旬に発売したばかりですが、売れ行きは上々です。開幕といっても３月31日だけではありません。我々の場合は４月７日、甲子園の開幕もあります。そこに向けて応援ムードを盛り上げているところで、地元の百貨店や流通大手に協力いただいて売場に特設コーナーを設けています。
――阪神ファンはムードに乗りやすい？
田中 いいえ、ムードや雰囲気に乗りやすいわけではありません。好きだから買うのです。その証拠に瓶詰めよりもスパウト型の10パック入りが圧倒的に売れています。なぜだと思いますか？
――分け合うとか？
田中 そうです。瓶や缶は球場内に持ち込めませんが、パック詰めは持ち込めます。10パック入りを買って甲子園に持ち込み、周囲に配ってみんなで応援するためです。お客様は自分が好きなことのために応援したいという気持ちが強い。
これは作り手も同じです。自分が好きなことであれば、会社から指示されなくても率先して動きますし、企画提案が積極的にあがってくる。今回の共同企画で営業に人一倍力を入れているのは阪神ファンの総務経理部長です。「球場で配る」と言って、販促用のタオルまで作ってしまいました。仕事の本質はこういうところにあると思います。
のり佃煮「アラ！」シリーズ商品、手前は素材にこだわった新商品の「黒毛和牛アラ！」
（左）と「本まぐろアラ！」
「アラ！」も「アレ！」も真剣に作っている
――ユニークな商品名を含めた攻めの姿勢は創業以来の伝統？
田中 当社の祖業（1934年）はしょう油醸造ですが、創業者の大西大三は何事もまずは自分たちでやってみようとの精神で、こんぶ佃煮やのり佃煮、塩ふき昆布などの商品開発に取り組んできました。商品開発の難しさを「千三つ（せんみつ）」と言いますが、作ってみないことには売れる商品は生まれない。
自由な発想で自ら積極的に取り組む「信頼と自主と向上」。これは５つある当社の根本方針の１つです。我々はいつも真剣です。「アラ！」も「アレ！」もすべての商品を真面目に作っているのです。
――ファンづくりが商売の原点のよう。
田中 今回の共同企画で改めて勉強になったのはブームや勢いに乗るのではなく、我々が本当に好きなもの、やりたいことをお客様と共有できれば成功につながるということ。当社の商品はいつもお客様が宣伝してくれますが、そこには好きな商品を周囲に広めたいという思いがあるのだと思います。
当社は根本方針の１つに「天下をファンにする」を掲げています。関係者の信頼を得るだけでなく、関係のない人も、競争者さえもファンにする。そういう心がけで事業に取り組んでいます。（次号へつづく）
（たなか・ともき）1995年大阪経済大経営学部卒業。大手量販店勤務を経て、2002年ブンセン入社。03〜05年会社に勤めながら大阪大学大学院で学び修士課程修了。09年取締役、12年副社長、14年から現職。1972年８月兵庫県たつの市生まれ、50歳。