阿部万寿雄の「食の安全」と「ものつくり」 −10−
「5Sに始まりHACCP認定まで」
S社の5S活動6年間を省みて(3)

 工場は最強のセールスマンである。
 大手会社のバイヤー、仕入れ担当者は何か新しい商品を求めて遠方から工場を訪れる。そんな多くのバイヤーが喜んで訪問してくれる工場でありたい。
 5S活動が軌道に乗り始めると、正面玄関の周辺は雑草が取り除かれ、週1回、朝の始業前に職員全員で玄関・事務所の掃除を始めた。工場内部も整理・整頓・清掃が進む。そのうえ従業員の笑顔で得意先を迎える姿勢も生まれ、遠方から訪問したバイヤーはそこに心を打たれ、S社のことを見直すようになった。
 バイヤーを工場に案内するのに幹部は次第に自信を持ってきた。バイヤーは商品サンプルを試食し、買い付けを決意して帰路に着く。

きれいな工場づくりを目標に、各所に掲示を設ける

5S活動からFDA方式のHACCPへ

 食の安全が一層厳しく消費者から求められる時代になった。特に食品加工メーカーが使用する原材料や添加物、流通の温度にも消費者の目は厳しい。
 そこで、食の安全を確保するために大日本水産会が指導する、世界で最も優れた米国FDA方式のHACCPの導入をS社に紹介した。
 
 (1)幸い、S社はISO14000を取得しており、ISO9001については理解を示していた。
 さらにHACCPの基礎部分である5S活動を3年間展開し、管理の実践と現場で整備してきた実績があった。
 認定対象商品をA工場の「カニクリームコロッケ」に焦点を絞り、挑戦することにした。
 目標は1年以内、出来れば6カ月として取り組んだ。設備投資は極力抑え、ソフト面でカバーするよう対応した。
 しかし、建物は古い、昔の水産加工場であった。特に出入り口の開口部が広い。工場内部と外部は段差がないため、外部汚染の遮断に苦労した。まず、外部からの車両の進入をストップし、人とモノの出入り口を区分して、手・靴の洗浄殺菌を行なった。
 また、交差汚染を防ぐため、人の動線管理・ゾーニングなどに工夫を重ねた。(次号へ続く)

きれいな工場でバイヤーを迎え入れる