戦後いち早く農産物用包装資材を取り扱い始め、国内トップシェアを占める(株)精工(大阪市、林正規社長)。現在は食品関連の包装資材製造からデジタル印刷、包装機械製造にまで事業領域を広げる。会社が成長カーブを描く中、営業企画部を率いる大枝麻由取締役は新規事業を立ち上げた。
大枝取締役
――入社の経緯は?
大枝 幼い頃から会社の包装資材に触れ、父親の海外営業にも同行する中で、海外と日本のパッケージの違い、スーパーマーケットの違いなどを消費者目線で見てきました。
海外は面白いと感じる一方、日本の農産物の包装資材といえば、当社では年間何億枚も印刷しているのにもかかわらず、当たり前の情報をデザインしているだけで面白くない、もったいないと思うようになりました。
そこで農産物の包装資材に特化したマーケティング・デザイン企画会社「果菜葉(かなは)」を立ち上げ、生産者と消費者のコミュニケーションツールとなるパッケージデザインを(精工と共に)企画提案しました。
パッケージの力で商品価値を上げたいという思いはさらに強まり、2013年に精工に入社。社内に営業企画部を設立し企画提案を強化してきました。
今年3月下旬からは菓子店向けにオリジナルパッケージを小ロットで提案する新事業「咲菓(さいか)」をスタートしました。
――どのような事業内容?
大枝 小規模の菓子店はコスト面からオリジナルパッケージを作れないため、無地のフィルム袋を購入してシールを貼っているのが実情です。とはいえ、やはりパッケージにはこだわりたいはず。可愛いパッケージを作りたいはず。そこでパッケージでお菓子をより華やかにし、個性を咲かすお手伝いをします。
グラビア印刷の場合、最小ロットはどうしても4000mからになってしまいますが、今回500mから作れるということを打ち出しました。何色使っても版代がかからない上、複数デザインも印刷可能なため、味ごとにデザインを変えられます。
新事業「咲菓」のパッケージサンプル
当社にはグラビア印刷機もデジタル印刷機も後加工の設備も整っています。デザインから印刷、製袋、納品まで自社で行えるのが強みです。これらを活用してお菓子に特化したデジタルに挑戦することにしました。
――街の個店だけで採算は合う?
大枝 街の菓子店に限らず、催事や限定商品に活用したいというニーズはあると思います。売場を見て回ると中堅クラスでも同じパッケージを工夫して使っている会社は多い。例えば焼き菓子でもパッケージは同じながらシールで種類の違いを表示したりしています。オリジナルパッケージを作りたい、パッケージにメッセージを入れて付加価値を高めたい、色を変えたいなどのニーズは必ずあると思います。シールを貼る作業が必要ないということも人手不足対策で訴求できる点です。
――これまでも女性目線での商品開発で成果を出してきた。
大枝 袋に入れた果物や菓子が「かご」に盛られているように見えるチャック付きスタンドパック「盛りかごスタンドパック」は日本パッケージングコンテスト(日本包装技術協会)で入賞しました。青果物のみでなく、食品関係の簡易ギフトや詰合わせセットに採用して頂きました。
口広のビンにサラダや果物ジュースを入れる「メイソンジャー」が米国と日本で流行した時は、メイソンジャーに見えるパッケージを作ったりもしました。
遊び心を加えて新商品を開発したり、アイデア次第で付加価値を創出したりといったことは、菓子の分野で求められる要素です。デザイナーと女性中心の営業企画部ですが、今後も消費者目線、女性目線で商品開発に取り組んでいきたいと思います。
大枝取締役が商品開発した「盛りかご」スタ
ンドパック。袋なのに果物はかごに入ってい
るように見える
角底タイプのボックスパック。フェースが
前を向くので、中身がしっかり見える
――会社の歴史を聞きたい。
大枝 当社は1911年(明治44年)創業です。株券や通帳、文具などの活版印刷業を行っていました。戦後、2代目にあたる祖父が農産物包装資材の卸売を始めました。当時、農産物は木箱に入って出荷されており、側面に品名や産地を表示したラベルを貼っていましたが、祖父がラベルのデザインを洋画家に依頼したところ大変好評を得たそうです。
1960年代頃からフィルムを取り扱うようになりました。実は日本で最初にレタスをフィルムで包装したのは祖父です。産地の香川県から関東圏に運ぶため鮮度保持のニーズがあった。そこでフィルムメーカーと一緒に開発し印刷まで手がけました。その頃、日本に輸入され始めたキウイフルーツのパッケージング容器も開発しました。
スイカのスタンドパックは消費者目線・作業効率
向上の観点で開発。包装資材による付加価値化に
貢献した
――農産物包装資材の国内シェアはどれくらい?
大枝 30%程度で推移しています。1980年代以降、スーパー業界で防曇フィルムのような機能性フィルムやバーコード印刷の需要が高まったため、当社も加工業に進出し、1990年にフィルム加工工場を高知県に建設しました。その後も需要拡大に合わせて新設、増設を進め、オンデマンド印刷機を導入するなどして、現在は高知に3工場、茨城に2工場、宮城に1工場あります。
――設備投資に意欲的だ。
大枝 工場の新増設だけでなく、2000年にデジタル印刷機、2014年にアジア1号機となるINDIGO20000(HP社のデジタル印刷機)を導入しました。また、2008年に食品包装資材メーカー、2011年に包装機械メーカー、昨年は菓子・パンの包装資材卸問屋をM&Aで取得しました。現在は農産物をはじめ菓子や麺、飲料など食品全般の包装資材製造、フィルム加工、デジタル印刷、包装機械が事業の柱です。
会社の歴史を振り返ってみると、祖父が農産物に特化し、父(林健男会長)の代でメーカーに進出、兄(林正規社長)が4代目でデジタル印刷に本格参入したという流れになります。
2012年に竣工した「つくば第二工場」(茨城県
土浦市)。INDIGO20000を3台設置する
――主な取引先と取扱い製品は?
大枝 サンキスト様やホクト様をはじめ大手流通の青果物の包装資材(防曇・有孔フィルムなど)、カットサラダのパッケージ、スーパーマーケットやコンビニのパッケージ、飲料ラベルやパンの包装資材などです。その他、デジタル印刷機を導入した18年前は大手企業のダミーサンプルを多く受注していました。
――ダミーサンプルとは?
大枝 新商品発売前のマーケティング用などのパッケージです。紙見本ではなく現物の見本で確認したい場合に使用します。版代がかからず、小ロットで印刷できるというメリットがあります。
デジタル印刷は高額のため大ロットの場合は現在も圧倒的にグラビア印刷が多いのですが、少ロットと製版代を考慮すればデジタル印刷のほうが安い。また最近では、人口減少や多様化などから小ロットのニーズが高まってきてデジタルの活用が多くなっており、環境負荷の低減や廃棄コストの観点からデジタル印刷を使えないかという相談が寄せられます。
現在はINDIGO20000とグラビア印刷機を組み合わせた「ハイブリッド印刷」を提案しています。
工場内には青果売場さながらのショールームを設
けている
――ハイブリッド印刷とは?
大枝 以前のデジタル印刷機は印刷幅が狭かったためダミーサンプルしか提案できなかった。INDIGO20000では広幅印刷ができるようになったことで本番生産ができるようになりました。ただ、印刷に時間がかかる、インキ代も高いという課題は残る。
そこで、デザインが変わらない部分はグラビア印刷、変わる部分はINDIGO20000で印刷する。多品種大ロットに対応できるだけでなく、コストダウンも可能になります。グラビアとデジタルの両方を使うので「ハイブリッド印刷」と呼んでいます。
――導入実績は?
大枝 数年前から飲料メーカーのキャンペーンや期間限定商品で採用されています。同じ飲料でもボトルパッケージにオリジナルの写真や名前を入れたり、デザインのバリエーションを増やせるため若者を中心に人気を集めています。
ハイブリッド印刷で多品種メガロット(大ロット)に対応できたことで、今後も商品の付加価値を高める提案ができると思います。
――会社の強みはどこにある?
大枝 当社はパッケージのデザイン企画から製版、大ロットの場合はグラビア印刷、デザインを変えたいという時、小ロットの場合はデジタル印刷と柔軟に対応できます。さらに、必要な機能ごとにフィルムとフィルムを貼り合わせるラミネート、スリット加工して製袋まで全て一貫生産しています。そのため横持ちの時間ロスもない。こうした100%内製化による短納期とフレキシブルな対応、生産能力を強みとしています。
生産能力は1カ月あたり製版で約1000本、グラビア印刷で3500万m、デジタル印刷で約82万m、ラミネートで約500万m、スリットで約3000万m、製袋で約25億枚です。
(おおえだ・まゆ)1980年生まれ。大日本インキ化学工業(現DIC)を経て2010年、デザイン企画会社「果菜葉」を設立。2013年精工入社、営業企画部長。2016年経営戦略部を立ち上げ取締役経営企画本部長、2018年取締役営業企画本部長就任。新規事業開発室担当。趣味は旅行、海外のスーパーマーケット巡りとパッケージ収集。野菜ソムリエ、包装管理士の資格を持つ。関西学院大学商学部卒。