世界人口増加、日本型食生活が食料不足を救う

 世界の人口が70億人となり、食料需給の先行きに不安も聞かれる。食料需給シミュレーションの第一人者である日本大学生物資源科学部食品ビジネス学科の大賀圭治教授は、人口増加と今後の食料需給について「人口が増えたから、食料が足りないということではない。新興中進国の経済発展やバイオ燃料の需要増で、農産物の需要が増加している。経済力のある人の消費が増え、逆に栄養失調や餓死する人も増えている。今後、人口は100億人程度までなると予測がある。
 課題は、世界の人々が欧米型の食料を多く消費するのではなく、肉をあまり消費しない日本型の食生活とすることが、世界の人口と食料問題の解決となるだろう」と語った。

      大賀教授

 大賀教授の発言は次の通り。
 1960年代の人口爆発の時代から、世界人口の増加の性格が以前とは異なってきた。これは絶対数で人口が増えたというよりは、地域によって人口の増加が偏在してきている。特に世界の人口の二割を占めている中国が、今後10年もすると今の日本と同じように人口の減少局面となってくる。また、先進国も人口の減少局面に入ってくる。
 開発途上国のうち中国を除く地域では人口が増え続ける。アフリカとラテンアメリカの人口が特に増えている。つまり、絶対的な人口が増えるというよりは、人口の地域的な差が非常にはっきりしてきている。
 それと食料との関係では、人口が増え続けているアフリカ、ラテンアメリカでは、貧しさとセットとなり、人口が増加としている。単に人口が増え食料が足りないということではない。世界の食料事情では、買う力のない人の食料問題をどうするのか。栄養不足、飢餓に直面する人達をどうするのかという問題が拡大している。かつて1960年代の東西冷戦時代、西側諸国は途上国が社会主義化するのを防ぐため、余剰農産物を使って食料援助してきた。しかし現在、先進国は援助する力を失っている。
 また、70億人のうち、先進国は二割、後の開発途上国が八割だったが、今では、この八割のうち、BRICSや東南アジアで経済成長を遂げている国を含めると五割となる。これに先進国の二割を加えると、本当に貧しい国は三割となる。この五割の新興経済国の食生活レベルが変わり、食料の消費が増えている。この需要が増えたことと燃料用に農産物の需要が増えたため、世界的な農産物の価格が上昇している。

新興経済国で水産物需要が急増、魚の奪い合いも

 世界中で日本食ブームが起り、日本人の健康で長寿の食生活に世界の人々が注目している。世界で魚食の良さが理解され、経済が豊かになったため、水産物の需要が急増している。このため、海の天然魚はすでに1980年ごろから不足している。中国や東南アジアの新興中進国では、富裕層が増えるのに伴い海産魚の需要が増大している。中国周辺の海域では、魚をめぐって相当に激しい競争が起きている。すでに、中国と韓国は、漁場をめぐり相当な摩擦が起っている。その傾向はますます強まっている。これからは豊かな日本人と中国の豊かな人が、高級魚を取り合う時代が来るだろう。
 
 世界の人口は、あと20数億人は増えるだろう。そこで今後、中国をはじめ新興中進国の人々が欧米型の食生活になると、食料は不足し大変なことになる。これを解決するには、世界に日本型食生活を広めないといけない。