“氷温”駆使する、無二の冷蔵倉庫
厚生冷蔵

きっかけは地場特産品“落花生”

船橋冷蔵倉庫団地に立地、都心へのアクセスが良い

 厚生冷蔵(千葉県船橋市)は千葉県を拠点に水産加工や水産卸小売業、製氷業を営む厚生水産(同)のグループ会社。親会社の厚生水産でも、直轄の冷蔵倉庫を千葉県内に複数所有しているが、機能は製氷とその保管がメイン。これに対し、同社は船橋冷蔵倉庫団地内(船橋市浜町)という地の利を活かし、外部からの原料、商品の保管を専業としている。
 1981年(昭和56年)、厚生水産がこの地に冷蔵倉庫を新設。83年にそこを法人化し、厚生水産が委託したのが同社の始まり。設立当初から地場の特産品である海苔や落花生の保管業務で地域に貢献してきた。施設の一部は、大手スーパーのプロセスセンターとして機能していた時期もある。
 この落花生こそが同社の方向性を決定づけた。
 操業を始めた頃、一般的に落花生を冷凍保管することは敬遠されていたが、一方で、海外からは落花生を冷凍させるとよりおいしくなるという情報も聞かれるようになった。
 「日本でもやってみる価値はある」。そうにらんだ厚生水産の社長でもある杉井和夫社長はこの真偽を確かめるため、研究がスタート。それが氷温と出会うきっかけとなった。

氷温で素材の良さ引き出す

 「氷温は“究極のチルド”と思っていただいていいでしょう。食材をお預かりし、その温度帯で管理し、再びお客さまのもとへお返しする。そこが当社のセールスポイントです」。杉井良匡営業課長はこう説明する。同社で氷温技術研究に先頭になって従事している人物でもある。
 食品は0℃では凍り始めず、それぞれに固有の「氷結点」で凍り始める。0℃からこの氷結点までの温度領域を「氷温域」といい、氷温技術はこの領域を利用している。
 その効果は、高鮮度の保持化や有害微生物の減少化、高品質化など様々。当時、落花生を冷凍させるとおいしくなると言われ始めたのは、どうやらこの氷温域による効果だということもわかってきた。
 今でこそ、検証が進み、氷温食品は認識されてきたが、当時はその解明がまだ萌芽の段階。研究を始めた頃、同社は独自で進めていったが、そうした過程で専門機関である(公社)氷温協会に合流する。現在、中村春雄取締役工場長はその関東支部長を務めている。
 研究を始めて10年以上経過した1999年(平成11年)、同社の冷蔵倉庫を利用し、初めて“氷温貯蔵”を冠した商品である天津甘栗が誕生した。
 「氷温の効果を科学的に実証するには長い月日が必要でした。その間いろいろな食材で検証を重ねてきました」。杉井営業課長はこう振り返る。氷温技術を発揮するには素材そのものが持つ力を最大限に引き出すこと、そのためには素材のことをよく熟知していなければならない。栗にとってどの温度が最適なのかを確かめるため、杉井課長は原産地中国へ何度も足を運んだという。杉井課長は氷温協会で講演やシンポジウムがある際、全国各地で講師として活躍している。

「商品と会話する」

(左から)杉井冷蔵部長、中村工場長、杉井営業課長

 「氷温技術を前面に出すようになり、当初想定していた以外のお客さまとお付き合いすることができました」。杉井信裕取締役冷蔵部長はこう語る。躍進を続ける豆腐メーカーやコーヒーメーカー大手、蕎麦メーカーなど業態は様々。これらはそれぞれ原料である大豆やコーヒー豆、玄ソバを預かり、同社の冷蔵倉庫を経て、再びユーザーのもとへ。ユーザーは氷温熟成を冠した商品を次々と生み出している。
 検証やテストはまだ終わりではない。現在は穀物のほか、地場特産品の梨、あるいは地元の老舗銘菓から預かっている“パイ”などでも継続中だという。
 認定された氷温食品は650品目を超えた。氷温協会に加盟し、氷温食品の普及に努めている会社は、倉庫事業者では同社のみ。その役割は今後ますます大きくなると見られている。
 「氷温技術は単にハードを整えればできるわけではありません。素材そのものの質を高め、原料管理をしっかりと行うことが大変重要。そこが一番難しいところでもあります」と杉井冷蔵部長。預かる加工品の素材がどこでどのように育てられ、収穫されたかを知らなければ、その本来の力を引き出せないからだ。食材によって氷結点は異なっている。
 「商品(食材)と会話をすること」。3人は口を揃える。「お客さまから預かったものと対話し、価値をつけてお返しする。今後もお客さまの新たな商品作りのサポートができるよう心がけていきます」と意気込みを示している。