進化する農業技術、AI・ロボットが活躍

 農林水産省は産官学が取り組む農林水産研究のうち、内容が優れているとともに社会的関心が高いと思われる「2021年 農業技術10大ニュース」をこのほど発表した。中でもAIやロボティクスなどの先進技術をさらに進化させた研究事例が目を引く。

 デンソー立命館大学農研機構は自動走行車両で移動し、2本のロボットアームを使ってりんごやなし、西洋なしを収穫するロボットのプロトタイプを開発した。ロボットを使って収穫作業を自動化する試みはすでに各地で始まっているが、今回開発した収穫ロボットは、1個当たり11秒という人間と同程度の作業スピードを可能にした。AIによる高精度な画像認識とアームの協調作業によって実現した。

 ロボットに取り付けたカメラが果実を認識する。この際、2次元画像だけでなく、距離計測も行うことで果実の位置を正確に把握する。認識精度は昼夜問わず、90%以上を達成したという。さらに、2本のアームが互いの動きを理解して接触しないように作業することで作業スピードを高めた。収穫作業の負担軽減が期待できる。

       デンソーらが開発した果実収穫ロボット(デンソーHPから)

宮崎大は「豚の体重が見えるめがね」

 農研機構などの研究グループが開発したのはAIを使った病害虫の画像診断技術。被害を受けた作物をスマホで撮影するだけで、どの病害虫名かを判別する。

 現在はトマト、なす、きゅうり、いちごの病害虫45種類が対象だが、学習データは約50万枚にも上り、正答率は約80%に達する。ポイントは診断機能をネットを通じて利用できるAPI(システム連携)で提供していること。農業情報サービス企業などを通じて利用者が広がれば、撮影した画像(学習)データが蓄積され、AIの診断精度が高まることが期待できる。これによって早めの防除対策が可能になり、被害量や防除コストの削減につながる。

 宮崎大学はAIとAR(拡張現実)技術を活用した豚の体重自動判別システムを開発した。頭に装着した3Dカメラとスマートグラス(メガネ)を使って豚を見るだけで、体重と枝肉重量がスマートグラスに瞬時に表示される。

 3Dカメラで得られた豚の体形データから、AIが枝肉標準モデルに基づいて推定する。豚に触れることなく、目線を豚に合わせるだけで推定できるため、選別作業の効率化を実現する。最適な出荷時期の見極めが容易になり、収益向上にもつながる。

      宮崎大学が開発した豚の体重自動判別システム(宮崎大学HPから)