新石巻工場を中心にグループ工場のレベルアップを図る
マルハニチロ 執行役員 生産管理部長 山口龍一氏(上)

 マルハニチロの新石巻工場は今年4月1日から稼働を開始した。東日本大震災時に石巻工場の工場長で、震災後4年に渡り工場を切り盛りした山口龍一氏が、今年本社の生産管理部長に就任した。新石巻工場の現状などについて話を聞いた。

    山口部長

 ――新石巻工場が4月に稼働した。現状は?
 山口 新石巻工場は従来生産していた商品を引き継いで生産しています。生産効率の向上を目標に最新設備を導入ました。しかし立ち上げには想定外の事も起こり、全てが想定通りに動いた訳ではありません。4〜5月にはメーカーを巻き込んで機械設備の調整に時間を要しました。また微妙な調整がつかめず、内部不良品の削減も課題でした。
 社内外から新工場に対する期待は高く、お客さまからかなりの注文を頂きましたので、とにかく生産量を確保するため、従業員は必死に頑張りました。
 8月頃から想定以上の時間当たり生産数が達成できるようになり、課題の克服も進みました。ただ秋に新たな新商品も導入されたので、息つく間もなく次の課題に向けて取り組んでいます。

 ――従業員は?
 山口 旧工場では被災直後から150人くらいの従業員がローテーションを工夫して工場稼働を続けました。その殆どが新工場に残っています。また4年間、避難を兼ねて各地の工場に移った従業員も戻り、新たに採用した60名も加えて、旧石巻工場のDNAは受け継がれていると思います。
 導入した最新鋭の機器やロボットは、想定通りに稼働すれば大きな戦力になりますが、機械を停止させずに、何かあったらすぐ対応する等、機械が増えるほど管理者へのメンテナンスの要求と負担は増えます。乗り越えるべき課題は多々ありますが、経験豊かで、工夫に長けた従業員が多いので、確実に課題は乗り越えられると心配はしていません。

 ――二交代生産制に移行としていたが。
 山口 当初想定した人数の従業員は確保しましたが、新規従業員の教育も必要なので、二交替制は段階的導入を考えました。しかし予想を上回るニーズで増産が必要となったため、前倒しで二交代制をスタートさせました。短期的には本社若手社員を工場に送り込み、その後は地元募集で、応募が多数あったので、順調に二交代制に移行出来ています。

 ――設備は全て入れ変えた?
 山口 旧工場から古い機械を一部持ってきましたが、省エネ、自動化設備、新商品に対応できる加熱調理機器など、最新設備を積極的に導入しました。旧工場では震災後、設備投資も抑えられていたので、現場でフライヤー工程前後の現存設備をとことん改良して使い尽くすノウハウを磨いてきました。この経験が新工場の効率的な運営に繋がっています。

基幹工場での成功事例、ノウハウを横展開

 ――新石巻工場はマルハニチロの基幹工場という位置づけ?
 山口 他社と比べて、当社は広い食品分野を扱っており、国内外の各地工場で多様なアイテムを生産しています。工場ごとに最善の管理を求めた結果、工場間では手法に差異が生じています。この延長では管理手法や製造機器の標準化を進めにくいことが課題となります。
 今後、クラウドの低コストソフトウエアを活用することにより工場間の生産情報の共有や、IoTで製造機器の稼働情報の“視える化”が進みます。各工場で共有すべき技術や製造機器の標準化を進めることが必要です。
 また基幹工場を明確に打ち出し、人材と技術を優先投資して、技術と管理手法をグループの他工場に発信する拠点にしたいと考えます。石巻は最新設備が整っているので基幹候補の1つ。今後伸びゆく分野を中期経営計画の中で検討し、メリハリをつけた生産基盤の整備を進めてゆきたいと思います。

 ――ある会社では基幹工場を中心にエリアごとの工場をグループ化し、相互にレベルアップを図る、繁忙期の人手のやりくりなどを行っている。
 山口 当社も同じです。販売変動は工場の安定操業を左右しますが、従来は派遣従業員などでやりくり出来ました。しかし最近は短期的な派遣従業員の確保が難しく、工場間の人材融通は大きな課題です。
 生産性向上は自動化やIoTの進展で大きな転換期に差し掛かっているのは間違いありません。しかし大きな投資に見合う成果を得るためには課題もあります。例えばIoTで工場の“視える化”の自動化を実現しても、改善する人のスキルが弱いと効果は出ません。しかし改善効果が常時数値化されると、改善意欲は連鎖的に高まります。まずはその流れを作っていくことが大事だと考えています。

 ――海外工場との連携は?
 山口 海外で一次加工した材料を輸入して国内で最終商品にする、又は最終商品を海外の安い加工賃で作って輸入することは従前から行っています。これからも継続できる事業は続けますが、国による違いはあるものの、中国やタイでは人件費が高騰しており、従業員も集めにくくなりました。
 今後は安い人件費を目当てに海外生産する流れは弱まり、原料確保の拠点、および製品を海外市場に生産販売する拠点に重点は移ると思います。
 昨今、海外から機械化を進めるための技術連携の要請が強くなっています。前述した情報通信技術を使って国内工場間で技術や管理の標準化を進めることが、海外展開の標準化にも繋がります。その強化が、広い商品群を扱う当社グループとしての優位性に繋がるものと思っています。
(次号へつづく)