企業の理想郷つくりをめざす
寒天を掘り下げるなかで成長のヒントが
伊那食品工業 <上>

 「かんてんぱぱ」をブランドとする伊那食品工業(長野県伊那市、井上修社長)の社是は「いい会社をつくりましょう」。ノルマがなければリストラもない、社員が安心して楽しく働くことができる、めざすは「企業の理想郷」である。
 主力商品の寒天は国内シェアの80%を占める同社だが、単なる寒天メーカーの座にとどまらず、寒天がもつ機能を深掘りすることで健康食品としての寒天の効用を社会に広め、一方で食品用、医療用などに用途を広げるなど、寒天からブレークスルーした活動は目をみはらせるものがある。

緑に囲まれて瀟洒なたたずまいの本社

 同社育ての親と目されている塚越寛会長は、「大手企業と対抗して中小企業が生き残るためには独自の技術や商品を持たねばならない。そのためには『開発型の企業』になることが必要だ」という。1968年(昭和43年)、固形寒天を開発し特許を出願したのを契機に研究室を立ち上げた。以来、従業員の一割を研究開発要員に充てる方針で今日を迎え、現在は45名が開発に従事している。

 寒天といえばかつては用途が和菓子などに限られていた。同社は既成概念にとらわれず幅広い用途を自ら開拓・提案してきた。乾物だった寒天を使いやすい粉末にすると同時に、量産による安定供給と価格の安定、品質管理を徹底した。まったく新しい寒天の開発により食品原料や医療品の原料としても用途を広げている。
 DNA鑑定に用いるアガロースという特殊寒天や流行のドリンクゼリー、ファンデーションなどのほか食品加工機械までも自社で開発している。
 塚越会長は大手企業に対抗するには特許で身を守ることがまず第一と考えた。現在までに特許・出願した数は200件にのぼる。

 工場は3ヵ所。同社発祥の地にある沢渡工場が原料の海藻から寒天製品までの一次加工を担う。藤沢工場は沢渡工場から供給された寒天からゼリー、ドリンク、寒天はちみつなどを作る二次加工工場、そして本社に隣接する北丘工場は最終包装ラインをもつ包装工場という位置づけ。

発祥の地で今も稼働する沢渡工場

 同社では過去に原料不足、原料高から顧客に迷惑をかけたことがある。市場シェアが高いだけに安定供給の責務は重いと自ら任じる同社は原料の備蓄のために倉庫を保有する。
 原料を求め塚越会長自身が世界中を歩き、現在の安定した原料調達ネットワークを構築した。倉庫には韓国・チリ・インドネシア・モロッコなどからの輸入品、青森・長崎・伊豆・愛媛などの国産品取り混ぜて様々な産地の海藻が山積みしてある。現在、国内品は二割に過ぎず、圧倒的に海外品が多い。品質・価格・供給の「3つの安定」を重視する同社にとって優れた原料の安定調達が何より先決なのである。

商品に仕上げる藤沢工場