油水分離パウダーの開発に成功
ノルマルヘキサン対策に有効
ＡＳＰｉＡ 代表取締役社長 笹原憲久氏
笹原社長
厨房関連機器メーカーのＡＳＰｉＡ（＝アスピア、東京都台東区）はナノファイバー（超極細繊維）技術を使った新素材の油吸着材「ＥＣＯＳＡＳ（エコサス） ファイバー」シリーズを展開しているが、このほど工場から排出されるエマルジョン化（分散・乳化）した廃液を油と水に完全分離する「ＥＣＯパウダー」を宮崎大学との産学連携で開発した。
排水中に含まれる油分の総量を示すノルマルヘキサン抽出物質の含有量を基準内に収める画期的な製品。排水処理の問題に頭を抱える食品工場向けに提案を強化していく。
――「ＥＣＯパウダー」とは？
笹原 エマルジョン化した廃液に添加して撹拌（かくはん）すると、短時間で水と油の２層に分離する水質改善材です。これは液中のコロイド粒子（油分）が持つ負電荷とパウダーの正電荷がイオン結合してコロイド粒子が次々に凝結し、大きなフロック（集合体）を形成（凝集）するためで、「ＥＣＯパウダー」は凝結スピードの速さに大きな特長があります。
――スピードが速いということは短時間で油水を分離できる？
笹原 そうです。実際に見てもらいましょう。水性塗料が溶けた容器にパウダーを投入して振ってみます。わずか１〜２分で透明な水に変わりましたね。フロックは容器の下に沈んでおり、完全に分離したことがわかるでしょう。
――確かに透明になった。一般的に工場ではどのように処理している？
笹原 工業系の工場などでは水と油がエマルジョン化した廃液に薬剤を投入したり、フィルターでろ過したりして分離処理していますが、完全に分離できないケースが多いです。
水に水性塗料を溶かした状態（エマルジョン化したイメージ）
「ＥＣＯパウダー」を添加して撹拌すると数分間で油水が分離した
――水質規制は厳しいはず。
笹原 工場の排水は水質汚濁防止法や下水道法でノルマルヘキサン抽出物質、水素イオン濃度、窒素、リンなどの排出基準が決められています。このうちノルマルヘキサン抽出物質については、工業系の鉱物油が５mg／Ｌ以下、食品業界で使用する動植物系の油は30mg/Ｌ以下に設定されています。
「ＥＣＯパウダー」は鉱物油に対応できる処理能力を持っており、食品工場での排水処理には十分効果を発揮できます。
ナノ繊維の油吸着剤併用で効果を最大化
――排水処理はこれで十分？
笹原 油水分離した後の処理も重要な工程で、沈殿したフロックを除去する必要がありますが、通常の膜処理では目詰まりするおそれがあります。そこで、当社はナノ繊維の油吸着材「ＥＣＯＳＡＳファイバー」を併用します。
――ファイバーは数年前に起きた九州の大規模油流出事故で早期復旧に貢献するなど国から高い評価を得た。
笹原 最大の特長は圧倒的な吸着力です。製品の自重の最大60倍、重量20ｇの規格シートで約１Ｌの油を吸着します。そのうえで、�／紊話討い凸�だけを吸着する、��吸着した油の保持性能が高いといった機能を兼ね備えます。今回はナノ繊維の構造を変えて油を吸着させたまま水だけが通過するファイバーを新たに開発しました。パウダーと新ファイバーの合わせ技で油分の除去効果は最大化できます。
――水質規制に苦慮する食品企業は少なくない。
笹原 先行して工業系の大手企業と商談を進めていますが、食品工場も水質改善の需要は多いはずですから積極的に提案していきます。
「ＥＣＯＳＡＳファイバー」でろ過することで完全分離に至る
ラーメン業界の課題解決にも有効
――「ＥＣＯパウダー」のラインナップは？
笹原 ノルマルヘキサン対策のエマルジョン水用、機械油や切削油などの工場油用、動物性油脂の多いラーメンスープ用など６アイテムあります。
――なぜラーメン業界？
笹原 実は“こってり系”のラーメンスープは油脂の濃度が極めて高く、当社の調べでエマルジョン化した状態だということがわかったのです。そこで、動物性油脂の多いラーメンスープに特化した「廃液固化材」を開発し、すでに大手チェーンと実証実験に取り掛かっています。
動物性油脂が多いラーメンスープを「廃液固化材」で固化した状態
笹原 ラーメンスープの油水分離は厨房内のグリストラップでは処理しきれないケースが多いのです。ラーメンスープの油脂をシンクに流す前に固化できれば、グリストラップの汚れは各段に改善され、清掃費用の大幅削減と従業員の負担軽減につながります。さらに、100％生分解性の素材を原料に使っているため、固化したスープを肥料などにアップサイクルすることもでき、持続可能な循環型システムの構築に貢献できます。
――ビジネスの将来性に期待が高まる。
笹原 「ＥＣＯパウダー」はラーメンスープ用の廃液固化材以外はすべて原料に火山灰（シラス）を使っています。産出地は当社創業の地である鹿児島の桜島です。パウダーを起点とした新たなビジネスモデルの展開には、火山灰の有効活用で地方創生につなげたいという強い思いもあります。
ＡＳＰｉＡは新製品「ＥＣＯパウダー」の普及拡大に力を入れており、専任担当者が建機メ
ーカー大手や有名ラーメンチェーンなどと実証実験を進めている。右から東京本社営業部の
小林紘士部長、野中威史部長代理、綿貫学課長代理
（ささはら・のりひさ）学卒後、大手総合商社、業務用食品卸を経て2016年笹原商事設立。厨房機器メーカーとしてオリジナル製品の開発が増えてきたため、海外展開を視野に21年社名をＡＳＰｉＡに変更、現在に至る。油ろ過機やファイバー、パウダーの開発実績が認められ、韓国環境部（日本の環境省に相当）が設立を許可した「環境にやさしい低炭素グリーン政策研究院」（本部ソウル市）の国際担当副理事長に今年３月就任した。韓国政府の環境政策と連動した低炭素技術の研究開発を所属会員らと共に進める。1972年８月鹿児島県生まれ。50歳。