阿部万寿雄の「食の安全」と「ものつくり」 −8−
「5Sに始まりHACCP認定まで」
S社の5S活動6年間を省みて(1)

(1)S社との出会い

 2006年3月に農林水産省の外郭団体である大日本水産会を通じ、山陰水産振興会で講演の依頼を受けた。当時、デフレ・円高・原油高で山陰の水産業界は経営環境が悪いため、水産加工業界を元気づけてほしい、という主旨だった。
 地元水産振興会の業界代表、S社の社長が講演会主催者であり、最初に名刺の交換をさせていただいた。
 講演終了後、社長から「大変興味ある講演でした。一度当社の幹部に話をしていただけないか」と頼まれ、工場を案内してもらった。

(2)最初の工場訪問

 工場を見た最初の印象は悪かった。正面玄関の周辺は雑草に覆われ、工場内部は薄暗く、乱雑で、お世辞にも誉められなかった。
 見た後、社長から工場視察の印象を聞かれ、第一声「汚いです」と率直に返答した。即座に社長から「正直に答えていただき、ありがとうございます」と返ってきた。
 そこで「当社の幹部社員は若いし、食品製造には経験が浅いので、あなたに是非ともこれから指導をお願いしたい」と懇願されたが、住まいのある千葉からでは遠すぎる、費用もかかるので遠慮を申し上げた。
 社長は高校野球で鍛えたスポーツマンであった。その場で単刀直入に「東京から飛行機で1時間、空港から工場まで20分で来れるので心配無用」といわれた。社長の率直な人柄に惚れ込み、筆者は即決、この会社の技術顧問としてお手伝いすることにした。

(3)5S活動の導入(2006年7月)

掲示板を多用した

 「食品製造のイロハから指導してほしい」と社長は言う。そこで筆者なりにいろいろ考え、今までの経験から食品製造の基礎として5S活動の導入を提案し、社長をはじめ上層部の了解を得て実施することになった。
 5S活動の推進を全社で取り組むことで、製造・品質管理・開発・工務・総務の全部門が参加して、5S推進チ−ムを編成し、活動準備に取り組む。
 5S活動の宣言、キックオフを行ないスタートを切った。
 しかし、5S推進チ−ムは熱心に取り組んでくれたが、現場は全く無関心。そこで推進チームのメンバーと相談して、社内の5S活動の啓蒙と教育活動を展開することとした。
 朝礼に一言、5S活動の話を加える。5S専用の掲示板を設置し、社内に「5S活動実施中」という掲示を従業員の目に着くところに張り付けた。