「まず食品機械の展示会を見に行け。あそこに日本のモノづくりの粋が凝縮されている」。経済産業省の須藤治産業機械課長は、藤木俊光前課長から業務を引き継ぐ際、こう声をかけられたという。その話を聞いた記者は、今まで出会った食品機械メーカーの社長や技術者、営業マンの顔が何人も思い浮かんだ。その表情は、誰もが誇らしげな顔をしていた。
食品の加工機械ほど扱う対象物が柔らかく、また安全・安心を厳しく問われる機械は他にない。食品機械産業には日本の復興を先導する力や、海外に打って出る力を秘めている。そう信じている記者にとって、須藤氏の言葉はうれしかった。背中を押される感じもした。
安全・安心を厳しく問われる食品加工機械だからこそ、強固に作らなければならない。すぐに壊れてしまう機械ではユーザーの信用を失う。そればかりか、壊れた機械の破片が異物として食品の中に混入してしまっては、取り返しのつかないことになってしまう。
このため、食品機械の寿命は長い。食品工場を訪問すればわかるが、10年持つのは当たり前。20年近くは稼働し続ける。いや、30年以上働き続ける機械が珍しくないほど。食品メーカーの主力商品作りに欠かせない存在となった、この“30年選手”は「まだまだ若いヤツらには、この座を譲らないよ」と言っているかのようだ。製造ラインの中で一際存在感を示し、どの機械よりも輝いているのだ。
自分の“子ども”がユーザーのもとで長年愛され続けることは、機械メーカーとしてもうれしいはず。イメージ通りの食品を作る正確さと、長年働き続ける強固さを両方評価してもらったと受け止めているからだ。
しかし、寿命が長ければ、ユーザーが機械を更新する間隔も長くなる。「だからこそ、生き残るには、新機械の開発とともに、新市場を創出しなければならない。機械メーカーは絶えず新技術を開発し続けることに尽きる」と彼らは言う。
粒餡とこし餡しかなかった業界に、“第三の餡”を投じた加熱攪拌機メーカー。木材や鋳物からヒントを得て、「含侵」技術を使ってチョコに新しい食感をもたらした製菓機械メーカー。「未知の領域に挑戦する。これがメーカーとしての心意気」と彼らは胸を張る。喜びとともに、それがモノづくりに携わる者の責任なのだと記者は感じている。
須藤氏の言葉に「背中を押された」と感じたのは、改めて彼らの姿を、本紙を通じて広く業界の多くの関係者に伝えなければならないという、強い責任感を感じたからだ。それが記者の決意でもある。
本紙FENは今号で300号の節目を迎えました。さらに業界発展のため、『食品とエンジニアリング業界をつなぐWebメディア』として、より鋭い情報提供に務めます。今後もご愛読下さい。(本馬)