短時間で完全解凍、独自技術が高評価
プロトンエンジニアリング�蝓‖緝充萃�役 庄司晃氏
庄司社長
凍結・解凍システムの設計施工販売を手がけるプロトンエンジニアリング��（東京都品川区）は低温高湿度解凍機の「プロトン解凍機」を食品工場や量販店などに提案している。2018年の設立と社歴は若いが、すでに大手食品・飲料メーカーを中心に導入実績を積み上げている。
10〜30℃の温度帯で湿度100％の庫内環境を作りだす特許技術がポイント。食品の表面温度の上昇を抑えながら、ムラのない完全解凍を実現する。解凍時間が早く、解凍後のドリップも少ない。導入先からは「作業効率が上がった」、「解凍するための休日出勤が不要になった」と高い評価を得ている。
庄司社長は「大手メーカーは海外からの原料調達が多く、最近は解凍工程にも目を向けるようになった。解凍作業の効率化と高品質化の潜在需要を掘り起こす」と語る。
低温域で湿度100％を実現する特許技術
――プロトン解凍機の仕組みは？
庄司 庫内の温度を10〜30℃に維持したうえで湿度を100％にできることが最大の特長です。わかりやすく説明すると、氷水が入ったグラスの表面には水滴が付着しますが、これはグラス周囲の空気中の水分が凝縮（気体が液体に変化）して、グラス表面に熱エネルギーを与えている状態。当然グラスの中の水にも熱エネルギーを与えています。「凝縮潜熱」と呼ばれるもので、湿度が高いほど短時間で加熱します。この潜熱変化を使って解凍しているのです。湿度100％の庫内環境は他社では不可能。当社独自の特許技術です。
――どのようにして湿度100％の状態を作りだせるのか。
庄司 熱源は蒸気ボイラです。食品工場ならどこでも設置しています。これを使って冷凍機と蒸気ボイラのバランスをコントロールしながら湿度100％の状態にします。湿度100％の環境を作ることは非常に難しく、自動車の環境試験装置を製造するメーカーでも湿度100％となると腰が引けるほどです。
湿度95％を下回ると食材が乾燥し始めます。例えば冷凍畜肉は溶けが悪くなり、そこで温度を上げれば変色を引き起こす。従来の解凍温度は食材の表面が下限10℃〜上限30℃でしたが、現在は表面温度を気にするユーザーが多く、25℃が上限でしょう。当社は湿度が高いので他社よりも低い庫内温度で解凍できるのが強みです。
プロトン解凍機（右）とプロトン凍結機、都内にあるオフィスで実機を見ることができる
表面温度の上昇を抑える２段階プログラム
――表面温度の上昇をいかに抑えるかが解凍工程のポイント？
庄司 ここ数年、表面温度を10℃以上にしたくないという要望が増えています。今後の解凍機需要のキーファクターになるでしょう。
「プロトン解凍機」は２段階で表面温度をコントロールする解凍プログラムを搭載しています。表面温度が20℃近くまで上昇すると、中心温度も-５℃近くまで上がってくる。これが第１段階。ここで表面温度を15℃以下に下げます。食品の凍結点（最大氷結晶生成帯）は-２〜-４℃と言われており、中心温度がここを超えるまで表面温度15℃で解凍を続けて、完全解凍に持っていきます。この解凍工程が第２段階になります。
中心温度が凍結点を超えるタイミングで解凍を終わらせ、「締め運転」として表面温度と中心温度を０℃近い状態にして冷却に切り替えます。
たとえば月曜日から食材を使う場合、土日に-８℃〜-５℃で冷凍保管し、タイマー制御で日曜日の夕方に解凍をスタートするソフトウェアを装備することも可能です。自然解凍や水解凍の場合は、休日出勤するケースがありますが、こうした負担軽減に貢献できます。また、解凍温度が季節に左右される心配もありません。
２�圓硫鯏犹�間は他社の半分以下
−−具体的な活用事例は？
庄司 ２�圓侶榮�は実績の多いアイテムの１つです。鶏肉の完全解凍時間は他社が７時間かかるところ、当社は約３時間で終了します。ハムソー工場で使用する原木や60ポンド（27�圈砲療犒詁�なら一晩で解凍できます。
ほかにも飲料メーカーでドラム缶に入った冷凍オンレンジ果汁の解凍に使われたり、ジャムメーカーがペール缶に入ったシロップ漬けの冷凍イチゴを溶かすのに使用したりしています。このメーカーはアイスクリームメーカーにイチゴソースを供給していますが、これまでは受注後に２週間かけて解凍していました。ところが納期短縮を求められ、当社のプロトン凍結機を採用したところ１日で解凍できるようになりました。
ある量販店からは寿司を冷凍、解凍したいという要望がありました。いまは人が集まらず、出勤人員も安定していないため、人員がいる間に加工して凍結し、出荷に合わせて解凍したいという要望が増えています。
当社の解凍機を使って凍結した握り寿司を解凍し始めると、シャリだけが先に解凍し始め、ネタは冷えたままでにできます。
巻き寿司でもうまく解凍できます。今年２月の恵方巻の日に合わせて5000本を解凍しました。
鶏肉の解凍テストの様子、温度センサーで解凍状況をチェックする
穴あきコンテナでも解凍が可能に
−−ムラのない均一解凍で品質も維持している。
庄司 差圧方式を採用し、均一な循環風量で解凍ムラを抑えます。解凍ユニットには軸流ファンを採用し、噴霧した蒸気を差圧式で庫内に強制的に循環させるイメージです。
これに加えて湿度100％と樹脂製の穴あきコンテナに風を通せる技術を組み合わせた新機種を開発しました。これまではステンレス製の専用トレーを専用台車に載せて庫内に入れていましたが、穴あきコンテナが使えるようになったことで、洗浄の手間を大幅に抑えることができます。
−−どのように改善した？
庄司 通常は風の流れを制限するため、庫内に二重天井を取り付けますが、当社はこれを設置しない。二重天井があると照度が取れない（暗い）、清掃が行き届かないなどの問題が発生します。食品機械ですのでシンプルな構造が最優先です。
当社の解凍機は庫内に12段積みの穴あきコンテナを投入するだけで解凍できます。二重天井がなくなると、コンテナ上段から風がバイパスするので、上段には天板を置いてもらうことで対応しています。下の数段は衛生面を考慮して空の状態にする。二重天井がなくなったことで、庫内の掃除がしやすくなりました。穴あきコンテナは自動洗浄機を持っている工場が多いため、それを使って自動洗浄できます。
穴あきコンテナで解凍すると、風の抜け道が狭いため風速が上がることが分かりました。湿度が高く、風速も上がるため解凍スピードはさらに速くなります。
この穴あきコンテナにきちんと風を回せることも当社の強みの１つ。これまで培ってきた差圧式の凍結機、冷却機のノウハウや経験を生かしています。
差圧方式を採用し、均一な循環風量で解凍ムラを抑える
量販店向けに処理量40�圓両�型機を開発
−−プロトン解凍機のラインナップは？
庄司 小型処理量のワンバッチ160�圓�ら500�圈�1000�圈�1500�坩幣紊梁舁椴未泙蚤弍�できます。さらにスーパーや飲食店にも解凍機を提案したいと考え、菱熱工業（東京都大田区）と組んでワンバッチ40�圓両�型解凍機「メルツ解凍プロ」を開発し、このほど発売開始しました。
スーパーはセントラルキッチンやプロセスセンターを持たないインストア加工をしているところに売り込む計画です。あるスーパーでは冷凍えびを水解凍していますが、当社の解凍機を使えば解凍時間が短縮できるうえ、えびのうま味が流れない。色・食感も水解凍とはまったく違う。「メルツ」を提案したところ高い評価をいただきました。このほかファミレスや唐揚げチェーン、コンビニなどからも引き合いがきています。
プロトン解凍機は穴あきコンテナのほか、一斗缶やペール缶、ドラム缶まで対応できる