技術革新の余地はまだある
尾上機械 代表取締役 尾上昇氏(日食工会長)

 日本の食品機械技術は高い水準を誇っており、先月開催されたFOOMA展でもそれを物語っていた。「食の製造は人の手に触れる要素がまだあり、合理化の余地はまだある。安全・安心は人の手に触れないことがポイント」と日本食品機械工業会の会長を兼ねる尾上昇社長はさらなる業界の発展に夢を広げる。

    尾上代表取締役

 ――先月開催されたFOOMA展は盛況だった。出展社に聞くと集まった名刺が昨年の二割増、三割増がほとんど、中には五割増だったというところもあった。
 尾上 ブースを訪れた来場者数が去年より減ったという出展社は私も聞いていません。こういう時代だからこそ、合理化を求めて新しい発見を探っているのでしょう。だからと言って、すぐに売上げに直結するものではなく、不透明な部分が多々あります。
 今年のFOOMA展は企業間の経営に対するお互いの真剣さが端的に表れていました。将来のための企業努力、合理化、設備投資などの目論見があったのは間違いないでしょう。

 ――企業間競争への意欲とともに、危機感の表れだった。
 尾上 食品産業は幸い、衣食住の中でも特に強い。他の産業では五割ダウンや、中には三割操業という声さえ聞きます。食品は落ち込んでいるとはいえ、前年対比で数%ダウンに留まっており、まだ足腰が強い。他に比べてまだ余裕があります。この余裕があるうちに何とか手立てを加えたいというのが共通の意識です。

 ――2010年も上半期が終わったが。
 尾上 尾上機械だけで言えば売上げや引き合いは変わらないものの、ユーザーからの声は厳しいものとなっています。当社は肥料や飼料などの加工機械を手がけているため、畜産関係のユーザーがほとんどですが、口蹄疫の問題、“肉よりも野菜を”という食育政策などの影響も重なり、ナーバスになっています。より合理的に生産できる機械やシステムをユーザーは貪欲に求めています。

 ――そのユーザーの声に対し、どう応える?
 尾上 当社は生産性向上と合理化を両立させるIT時代にふさわしい管理システムを早い段階から手がけ、ユーザーに呼びかけてきました。それはFA(ファクトリー オートメーション)とOA(オフィス オートメーション)のドッキングです。
 飼料プラントのFAシステムは製造工程の自動化だけでなく、OA分野との情報通信をはじめ、工場での入出庫管理から製品出荷まで全てをコンピュータで管理し、事務処理、品質管理、監視制御に至る生産効率の向上を可能にするトータルシステムが求められています。

 ――具体的には?
 尾上 配合飼料工場の部門別業務管理と製造工程の制御管理をコンピュータネットワークで統合し、工場管理の合理化と生産効率の向上を同時に実現させます。新設工場だけでなく、既存工場のFA化にも対応していますので導入の幅は広がります。さらに提案しているのは、工場には正社員として工場長だけを置き、生産に関しては私たちが全て請け負うということです。工場長以外の正社員は管理や営業に専念できるよう支援するもので、ゴミ処理業にこのような形態が増えていますね。

 ――機械やシステムを作った人が実際に工場を動かす方がいいわけだ。それこそ合理的だが、もう実用化が進んでいる?
 尾上 ユーザーはコスト削減を追求しており、その中でも懸念となっているのは人件費です。数社は好反応を示していますが、まだまだこれから。というのも、製造ノウハウを開示することになるので、ユーザーも慎重になっており、そこまでは踏み込めません。しかし、変わらない姿勢は我々機械・システムメーカーからどんどん提案していかなければならないということです。従来はユーザー主導で、我々はそのニーズをつかむことに終始していました。しかし、今後はニーズを先取りして、こちらから働きかけなければ生き残ることはできません。それを実行するにはユーザーを納得させる技術と知識が必要で、さもなければ築きあげた信用も失いかねないものとなります。

 ――その姿勢は日食工の会員にも呼びかけていることと思う。生き残るといえば、工業会では次代を担う人材の育成に力を入れている。
 尾上 工業会では「FOOMAアカデミー」を開催し、機械メーカーの2世や幹部候補が積極的に参加しています。食品工学は化学、機械工学、電気工学、制御が複合したもので、これほどの分野をカバーして学べる機会は珍しく、その点は自負しているところです。さらにこの業界が大きくなるには、ユーザーや一般の方も巻き込んだ「食品大学」という構想があります。同期の桜ではないが、同じ机を並べ、ともに考える目線が生まれ、活発な意見交換も期待できます。

 ――そこで学んだものは、おいしく、安心・安全を満たした食品となって提供できる。結果的には一般消費者のためにもなりますね。今年のFOOMA展を見て、改めて感じたのはどのメーカーも高い技術力を誇っているところ。次々と食品ができあがる姿には圧倒させられた。これ以上の技術革新はありうる?
 尾上 食品の製造過程では、まだまだ人の手で触れる要素があり、そこに合理化の余地があると考えています。食の安全・安心は人の手に触れないことにあるのがキーワードであり、業界が発展する可能性は強いでしょう。また、既に部分的に採用されているところはありますが、ロボット技術の応用もこれからが本格化で、前途は明るいと見込んでいます。
 その成果を今後のFOOMA展でお見せできるといいですね。飽きられない展示会を心がけており、会員各社と質の高いものを仕掛けていきたいと思っています。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2010年7月14日号掲載