災害に強い冷蔵倉庫、「免震装置だけではダメ」
東亜建設工業 流通営業部長 渋井 博記氏

 ここ15年間で冷蔵倉庫に関し一番多くの施工実績、設計実績があるという東亜建設工業。震災を経験した今、災害に強い冷蔵倉庫を建てるには「免震装置だけでは通用しない」と警告する。10年の歳月をかけて実を結んだ研究成果に大手ユーザーも関心を示している。

   渋井流通営業部長

 ――「免震装置」を備えた冷蔵倉庫。昨年川崎市で施工した案件では、その完成を待たずして倉庫が満杯状態になったと聞く。
 渋井 多くの方に認めていただいた結果だと受け止めており、設計、施工した当社としても大変嬉しく思います。一般的に横揺れに強いといわれる「免震装置」ですが、それだけでは地震対策にはなりません。予想される首都圏直下型大地震への対策となる「PC圧着関節工法(“アゴ”付きの柱と梁)」との組合せが必要だと強く訴えてきました。多くの荷主からたくさんの荷物を預かる大手の冷蔵倉庫ユーザーは、何かがあった際にも事業を継続させるという基本を常に気にかけていますが、この点で当社の提案に関心を持っていただきました。

 ――直下型に強いという、「PC圧着関節工法」というのは。
 渋井 PC(プレストレストプレキャストコンクリート)は、通常よく使われるRC(鉄筋コンクリート)構造に比べ、強度が高く、ひび割れをしないという大きな利点があります。しかし、普通に考えてもPCはコストがかかってしまうのですが、当社はコストを下げるためにあらゆる方策を講じています。北海道の工場で一斉に作り、それを船で運んでいるのもその1つ。冷蔵倉庫は海に面した地域で施工が多いので、その利点を生かすことができます。マリコン(海洋土木・港湾施設の建設業者)でもある当社は、ゼネコンの中で船を一番多く持っているのが有利に働いています。

 ――PC自体が地震に耐えうる強度を持っているわけだ。
 渋井 通常の圧着工法では、柱と一体構造になった出っ張り(“アゴ”)がないため、強い直下型の地震に弱く、梁が下にずれ落ちる危険性があります。しかし、特許を取得しているこの工法では、“アゴ”があり、それが柱と一体構造となっているため、梁をアゴの上に乗せてPC鋼線で特殊な繋ぎ方をしています。アゴがあるのと、ないのとでは大違いです。非常に丈夫な鋼線で引っ張っているので、微妙にずれても元に戻ります。これが直下型地震に耐えうる強度となっています。

 ――技術の成果だ。
 渋井 「免震装置」と「PC圧着関節工法」、この2つの機能を持った冷蔵倉庫を提案できるまでに、10年ほど研究をしてきました。難しい環境下で運用する冷蔵倉庫に、今まで使われていなかったPCや免震装置などの部材や工法の長所を生かし、問題点をクリアすることも必要でした。
 この技術は一見すると、コストがかかると思われてしまうので、当初は“冷蔵倉庫には必要ない”、“いつ来るかわからない地震に、そこまで投資はできない”という反応が多かったのです。しかし、船をうまく使うなどの工夫により、コストを抑えて施工できることを説明してきました。その甲斐あって、昨年の川崎市の案件では、13社がRCで建てる一般的な冷蔵倉庫を提案したのに対し、当社だけが地震から荷を守り、直下型地震も想定した冷蔵倉庫を提案することができ、関心を持っていただくこととなりました。

 ――その熱意がユーザーに伝わった。
 渋井 竣工の1カ月後に震災がありました。しかし、あれほど揺れても被害を免れたため、当社が施工した冷蔵倉庫に対し“2期工事があるなら、増設したときは荷を預けたい”と声をかけていただいた荷主が多かったようです。

 ――ユーザーだけではない、荷主にも災害に強い冷蔵倉庫の必要性を考えるきっかけとなった。
 渋井 別のユーザーが10年ぶりに冷蔵倉庫を新設しますが、そちらでもこの“次世代型”の設計で施工させていただくこととなりました。この2件の案件もそうなのですが、1期工事と2期工事を繋げるようにしたいという要望が非常に多いのが近年のユーザーの傾向です。

 ――将来の増設を考えているユーザーが多いということだ。
 渋井 ここでも当社の研究成果が活かされています。というのは、免震装置の付いた冷蔵倉庫同士を各階でフォークリフトが行き来できるように、構造体自体を繋ぎ合わせることは従来の工法では不可能とされていました。「通路」のような形でエキスパンションジョイントはありましたが、構造体同士というわけではありません。それをPC圧着関節工法が初めて可能にし、接続工法の実用新案を取得できました。免震もPCも当社の“ウリ”ですが、実はこの免震装置を付けていながら、構造体同士を繋げるという工法がユーザーに喜ばれています。

 ――新たな領域を開拓した。今後の展望は。
 渋井 国交省が提唱している「津波避難ビル」に冷蔵倉庫が役立てられるよう、働きかけていくことだと考えています。沿岸部に頑丈な建物があれば、より多くの命が救えたかもしれません。今回の震災で防災型の冷蔵倉庫は社会貢献できると痛感しました。当社が持てる力を遺憾なく発揮することが社会貢献になるのだと感じています。
 すでに動き出しているのは、冷蔵倉庫の荷捌き場に加工場を置くという提案です。沿岸部では平屋造りの小さな加工場が点在しているという光景をよく目にします。津波が起きた際、そこで働く人たちが逃げ込めるようにすれば人命を守らるのも1つの手立てだと思いますが、初めから安全な冷蔵倉庫と一体の荷捌き場に加工場を併設して作ってしまうという考え方もあります。組合などが共同で防災型の冷蔵倉庫を新設するということで、その方が話が先に進むかもしれません。すでに気仙沼などで働きかけています。