冷凍機“パスカルエア”で応急処置、被災地の食品守る
前川製作所 取締役会長 中 章氏

 震災直後、東北のユーザーの状況を見て回ったという中会長。被害を受けた食品工場や冷蔵倉庫を目の当たりにして、食品の保存や流通に欠かせない“氷”の供給こそ、“マエカワ”が取り組むべき最大の責任だと実感したという。

      中会長

 ――大震災から2カ月以上が経過したが。
 中 特に水産関連での被害は深刻ですね。先行きが読めません。地震や津波に加え、原発事故が余計でした。日本の原発技術は最先端で、安全で安心と思っていましたが、それが脆くも崩れてしまいました。

 ――テレビなどでは、大学教授や有識者が出演し、「心配いらない」という論調に終始していたのだが。
 中 我々と関係が深い冷凍機や冷却機のプラントでも、学問レベルでの専門家がいますが、彼らが実際にプラントを動かしているかと言えば、そうとは限りません。現場の詳細はわからないと思います。学者と実際に動かしている人たちとでは距離がある、ということを今回の事故は浮き彫りにしました。

 ――震災直後は食品の保存や流通に欠かせない冷凍冷蔵設備の復旧が急務だった。冷凍冷蔵機器や空調機器類のメーカーを束ねる日本冷凍空調工業会ではユーザーの支援を強化するよう会員企業に呼びかけた。
 中 復旧後の安全点検や技術者の派遣、物資の供給などを強化しました。私も被災地に直接出向いて、ユーザーの状況を見て回りましたが、仙台港エリアは津波に浸かり、電気系統が壊れるなどダメージが大きく、修復まで数カ月間を要する工場や倉庫の様子を目の当たりにしました。ライフラインが復旧し、冷凍冷蔵機器や空調機器類に通電が始まった場合、地震や津波によって破損・冠水した機器が2次災害を起こす危険性もありました。

 ――復旧や復興に向け、冷凍設備メーカーに対する期待は大きい。
 中 “氷”を完璧に供給することこそが、当社ができる最大の貢献だと思っています。食品の保存には温度管理が必要。仮設でもいいから港に“氷”の供給基地を建てることができたらと願っています。

 ――冷やすことの重要性を改めて気付かされた。
 中 仙台港のある大手冷蔵倉庫では、1階は津波の被害を大きく受けて壊滅的でしたが、2階以上は大きな被害を免れました。しかし、電気系統がやられてしまったため、2階以上にあった商品を何とか冷やすことができないかと要請がありました。そこで、急遽パスカルエアを持っていき、発電機に直接つなげ、倉庫の扉に穴を開けて庫内に冷気を送りました。臨時の冷蔵倉庫が完成し、商品を冷やし続けることに成功しました。仕組みは単純です。パスカルエアは一番緊急の冷却装置となり得たわけです。

本社ビルは避難所を担う

 ――都内でも大きく揺れたが、地震に対する備えは?
 中 当社の本社ビルがいい手本となっています。1階には何もなく、2階に会議室、3階には備品類、その1番奥に電気室があります。4階以上がオフィスとなっており、最上階の8階が避難できるスペースとなっています。建物は免震構造で、江東区の避難所に指定されています。
 また、生産工場を2拠点構えているのも大変心強い。守谷工場だけでは何かが起きた際、不安がありますが、東広島にも工場があるので対応ができます。日本だけでなく、海外にも出荷しているので、納期を遅らすわけにはいきません。海外からの部品調達なども当社の強みになったと思います。

 ――リスクマネジメントがしっかりしている証拠だ。
 中 本社ビルの免震構造にしても、東広島工場にしても、その立ち上げに当初は社内に反対意見もありました。しかし、今から土地を用意するところから始めると考えると、大変だったと思います。このリスクマネジメントに気づくことができたことは不幸中の幸いかもしれません。

設備は「所有権」から「使用権」の時代に向かうのか

 ――これからが復興に向けた本番だ。
 中 入社式で新入社員に呼びかけたのですが、日本は四方に囲まれた海とともに歩んできました。海のおかげで異民族の侵入を防ぐことができ、三大漁場と呼ばれるほど豊かな水産資源に恵まれてきました。
 しかし、近代化に向けて明治以降、日本人は海を埋め立ててきました。産業用に様々なものが建てられ、美しい海の姿は消えてしまいました。復興するには美しい海を再生させることからスタートしなければならないでしょう。

 ――埋立地を再び利用することは、もう意味のないことのようだ。
 中 被災地の復旧・復興はもちろん、さらに重要なのは、間違いなく地震が起こるであろうと呼ばれている地域への対策です。これだけの被害を目の当たりにして、先に手立てを加えない手はありません。

 ――設備メーカーとして忙しくなりそうだ。
 中 液状化に悩まされている地域の住宅ではありませんが、この震災で設備を「所有する」ことのリスクを改めて気付かされたのではないでしょうか。以前にも、設備は資産ではなく機能としてカウントしようという動きが起こったものの、やはり自分が所有するというニーズが勝りました。しかし、これを機に設備の「所有権」から「使用権」へという考え方が再燃するかもしれません。

 ――リース業がクローズアップされることになる?
 中 そう単純なことではない、難しい問題ですね。しかし、私たち設備メーカーの立場としては、進歩し続ける技術を、その都度更新できるように機械を設定することです。絶えずユーザーに喜ばれる機械を作り続ける以外にありません。