看板商品“トルティーヤ”、千葉工場でも生産、軌道に乗る

 生春巻きやトルティーヤ、スープなどを製造するデリシャス・クックは、戸田工場(埼玉県)でキャパオーバーとなった分の製造を、昨年1年をかけて千葉工場に移設した。この移設プロジェクト、同社にとって千葉工場の大幅な収益改善を図る喫緊のミッションでもあった。

 戸田工場と千葉工場(千葉市花見川区)の2工場。一足先に看板商品を誕生させ、工場の稼働率を引き上げたのは戸田工場だった。それに大きく寄与したのが、微酸性電解水の導入だった。
 戸田工場は旧工場が老朽化し、生産能力も限界に達したため、同じ戸田市内に09年12月新工場として建設した。この新設を機に微酸性電解水の導入に踏み切った。電解水の生成装置を設置するには専用配管を敷設しなければならず、工場を新設するタイミングが良かったためだ。
 戸田工場に新たに設けた野菜洗浄設備は専門機械メーカー細田工業を中心に、森永エンジニアリング、東和システムと同社の4社がコラボして開発した。完成したバッチ式洗浄機「ネオラクーン」はエアーバブリングを使用せず、水流ポンプで洗浄することにより、殺菌効果を上げるとともに、野菜を傷めずに洗浄することができる。
 野菜の洗浄だけでなく、スライス工程でも微酸性電解水を流しながら行なっている。これは殺菌効果だけでなく、機械の摩擦熱を抑えて野菜が傷むのを防ぐ。
 工場スタッフの手洗いや厨房設備の外装殺菌、清掃にも活用している。

微酸性電解水で野菜を洗浄、
野菜がメインの商品に活かしている

 微酸性電解水の活用で食材の幅が広がった。それによって誕生したのが生春巻きやトルティーヤで、同社の看板商品にまで成長している。扱いにくいと敬遠されがちだったパクチー(香草)も商品に取り込むことに挑戦、他社製品の消費期限が1日であるのに対し、同社の製品は2日に引き延ばすことができた。
 この商品開発が大手スーパーやコンビニエンスストアから評価され、新工場を稼働して1年で、相次いで取り引き開始につなげることができた。

 千葉工場でも戸田工場の成功を踏襲し、2010年に野菜洗浄室を増設。これを機に、微酸性電解水の生成装置を導入した。盛り付けラインの部屋を10℃以下にし、製品倉庫には冷蔵庫を設けるなどチルド帯の環境を整えた。しかし、千葉工場の生産アイテムは弁当やおにぎりがメインで、微酸性電解水やチルド設備を最大限に生かす機会になかなか恵まれず、収益面では苦しんでいた。

“看板商品”を千葉工場でも作れないか

    若林生産本部長

 きっかけとなったのは、大手CVSやスーパーマーケットによる戸田工場への想定量を超える生春巻き、トルティーヤ、ゼラチンスープの生産要請。トルティーヤは大手スーパーとの取り引きが1アイテム300食からスタートしたところ1500食に。大手CVSに至っては、1アイテム1000食からのスタートが3000食にまで膨れ上がるほどだった。
 「生産要請は戸田工場のキャパを超える勢いでした。既存のお客様の対応に精一杯で、お問い合わせいただいた新規のお客様との取り引きを断らざるを得ない状況でした」。若林裕生産本部長兼千葉工場長は当時を説明する。

 若林生産本部長は前任が戸田工場長。同社の経営陣に微酸性電解水の導入を勧めた人物でもある。2012年8月、両工場を統括する生産本部長に。千葉工場の収益改善が喫緊の命題だったため、直接指揮する工場長も兼ねることとなった。
 このタイミングで若林生産本部長だけでなく、戸田工場の生産課課長ら社員数名が千葉工場へ異動した。同社にとって、2工場間の本格的な人事異動はこれが初めてだった。

 千葉工場を軌道に乗せる。戸田の人材が千葉へ渡った。戸田の生産キャパは限界に達している――。やるべきことはすぐに見つかった。「戸田で作りきれない生春巻き、トルティーヤ、ゼラチンスープを千葉で作るしかない」。そう決断する。「幸い、千葉工場でも微酸性電解水を導入し、チルド設備も整備していました。この環境があれば千葉でも作れるはず。有効活用しないわけにはいきません」(若林生産本部長)。

トルティーヤの製造ライン(千葉工場)

工場間で人材交流活発に

 2012年後半の準備期間を経て、2013年千葉工場のプロジェクトを本格化させる。
 しかし、設備は整備していたが、千葉工場へのチルド商品移管は簡単ではなかった。超えるべきいくつかの壁があった。
 まず、同じ商品を2工場で作って、同じ取引先に収めるということ。他の多くのベンダー会社が既に手がけているが、同社にとっては初めてのことだった。
 もう一つは、慣れている工場と慣れていない工場を、同じスペックにしなければならないこと。前者の「同じ基準のものを取引先に収める」ためには、作り手が同じレベルでなければならないのは当然。同社はこの対策に全力を注ぐ。
 社員の異動はもちろん、2工場間のパートスタッフを入れ替えて研修にも行った。人材交流が活発な1年だったと振り返る。千葉から戸田へは“看板商品”の作り方を習いに、戸田から千葉へは教えに――。1日に、2工場間をバスで送迎するため、時間的な制約があり、パートスタッフも真剣そのもの。こうした交流の積み重ねはノウハウ以上の何かを得ることにつながった。

同左

戸田工場から千葉工場に異動し、商品移管
に尽力したメンバー

 適切な設備、研修、人材交流――。こうした活動が実り、千葉工場でも生春巻きやトルティーヤ、ゼラチンスープなどの生産が“ひとり立ち”した。今まで増産要請を受けても断らざるを得なかった戸田工場のぶんを千葉工場で引き受けることができた。収益面でも13年後半から改善効果が見えはじめ、11月からは大幅に改善できた。
 商品開発にも自信がみなぎっている。今冬は春菊を使ったゼラチンスープに挑戦。寒い時期にぴったりの鍋物をイメージした商品に仕上げた。あらかじめ熱を加えた春菊をスープに入れるのではなく、生の原料を使う。このため、レンジアップしてもベチャベチャになりすぎることはない。「春菊もパクチーと同様に扱いは難しいのですが、微酸性電解水を活かして完成することができました。洗浄しても機能水独特のにおいはしません。生のまま使えるのがポイントです」(若林生産本部長)と説明する。
 「13年中に千葉工場の改善が間に合いました。14年は今まで以上に既存のお客様が満足できるよう、2工場で安定稼働に努めます。引き続き“デリシャス・クック”ならではの商品を開発し、より磨きをかけていきたいですね」と語る。

ゼラチンスープの製造ライン(千葉工場)

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2014年1月8日号掲載