タイは日本への加工食品輸出量が中国に次いで多い。昨年、中国が日本への輸出を大きく減らしたのに対し、タイは日本への輸出を安定的に伸ばしている。
しかし、主力生産品目は大きく変化している。冷凍食品の場合、日系メーカーが進出した90年当時は水産系、特にブラックタイガーを原料としたえびフライが多かったが、その後えびの養殖が近隣国に足場を移したこともあり、近年は鶏や豚の畜肉製品が好調に伸びている。ベタグロと伊藤ハムが新工場を来年に予定し、ニチレイがGFPTとインテグレートの鶏肉製品を計画しているのも、近年のタイにおける畜肉製品に競争力があるからと言えるだろう。
味の素冷凍食品と現地ベタグログループの合弁企業TABとABS、日系企業向けの畜肉製品を生産しているベタグロの子会社BFS、ニチレイフーズと現地の合弁スラポンニチレイフーズの4工場を訪問した。
トンカツなどを主力とするABS
味の素冷凍食品とベタグロの合弁で豚肉製品を手がけるABS(味の素ベタグロスペシャリティフーズ)は今期倍増の4000tを目標に好調な生産を続けている。
同社は04年に発足。ベタグログループがSPF方式で飼育したSPF豚を原料に使っている。SPFポークは一般の豚肉より価格は高いが、安全性が高く、柔らかな肉質が特徴。
製品は家庭用の「甘酢たれがけ豚の竜田揚げ」や業務用のトンカツ、串カツなど、いずれも伸びている。
味の素冷凍食品は今春から打ち出した「バリュークリエイト」戦略で、価値を飛躍的に高めることにより、価格訴求に陥りがちな冷食産業を回復させようとしている。素材にこだわったタイの商品にもその理念を貫いている。
一般に冷凍串カツの衣比率は50%近いが、同社の串カツは衣比率35%と少ない。
「SPFポークの柔らかさと味の良さを感じることができる当社の串カツは一直フル生産でもぎりぎりオーダーに応えられるほどの人気」(高橋健三郎社長)という。
一般に冷凍トンカツは肉片を合わせて型に入れるケーシングを行なっているが、ABSのトンカツは一枚肉を使用している。そのため形も一つ一つが異なり、手作り感たっぷり。豚竜田も手切りにより手作りの良さを出している。整型品も生産しているが、特に流通からは手作り感ある商品の評価が高い。
こうした好評価が定着し、昨年は飼料をはじめ諸コストが軒並み上がったにもかかわらず月産400tを越えた月もあった。今期の倍増目標も手が届く範囲となっている。
工場は07年9月に2ラインを増設して6ラインになっている。生産キャパは年間1万tほどある。
工場は日本の平均的レベルより間違いなく近代的だ。大量生産型の機械化工場で、人海戦術的な海外工場のイメージは、ここには全くない。従業員は550名。生産量に対して多くない。完全なストレートラインとなっており、前処理、加熱、包装区分が確実にできている。製品は縦方向に流れ、資材は横方向から入ってくるので、汚染の可能性が非常に少ない。
排水溝は人が入って掃除できる広さのU字溝。空調はソックダクト方式。
TABの製品、カツ類はほ
とんどが一枚肉を使っている
旧工場がキャパ一杯になったことから一昨年10月に新築移転し稼働したTABは、昨年、唐揚げが10%近く伸びた。昨年の生産量は1万4000t近くあり、今期も同等の生産を見込んでいる。
ラインは唐揚げ3本、グリルライン2本、炭火焼ライン2本。1000tの低温倉庫も持っている。ABS同様にインテグレードで生産している原料鶏はベタグログループが供給している。倉庫が巨大なのは農水省の規準により、他の営業倉庫に保管すると輸出できなくなるという理由もある。
付加価値を高める方向性はABSと同様で、肉は全て一枚肉を使用。中でも備長炭でローストした商品は同社ならでは。機械化で連続生産したとは思えないほど炭焼きの香りが良く出ている。炭火焼を丼向けに活用したタレつきの新商品も開発した。今後もさらに付加価値を高める方針だ。
工場は近代的なストレートライン。揚げ物はダブルフライヤーのラインと、フライ蒸しの両方式を備えている。フライヤーに鶏肉を投入する方式も、自働方式と手投入の2通りあり、様々なタイプに対応している。このほどイスラム教信者向けのハラルを取得した。近々、イギリス小売協会の規準BRCも取得する。
ABSとTABは同じベタグログループの工業団地内にあり、来年スタートする伊藤ハムのハムソー工場も同団地内に建設する。BFSも同団地内にあり、日本向け畜肉生産基地の様相を呈している。
味の素冷凍食品は独資のAFTとともにタイで3つの工場が互いに生産効率を高めるノウハウを共有する活動も始めている。
ダイワフーズのいな穂豚製品
もBFSが生産している
ベタグログループはタイ国内で豚肉生産の三割を占め、輸出に関してはタイ国内でトップメーカー。昨年、タイから輸出した豚肉加工品は1万2280tで前年の二割以上の伸びとなった。そのうち20%が味の素冷凍食品と合弁のABS、13%がベタグログループのベターフーズ(BFS)。この2社は自社グループで飼育した豚を原料としており、3分の1が飼育からの一貫生産品ということになる。
さらに、他社が生産している製品も、その原料豚の75%はベタグロが供給している。つまりタイからの輸出品の八割以上がベタグロの豚肉を使っている。
ちなみにタイにおける昨年の豚肉加工品総生産量は88万5690t。2007年まで増え続けて100万tを超えたが、昨年は飼料の高騰が大きく逆風となり前年を下回ってしまった。しかし、長期的に有望な市場であることは間違いない。
ダイワフーズは昨年3月からタイ産「いな穂豚」を使った業務用加工食品事業を展開している。生産はBFS。焼豚類や角煮、ソーセージなど、肉の良さが品質を左右する商品が中心だ。
米を飼料に育てたいな穂豚は上質な脂肪と美味しい食感の肉質が得られる同社独自のブランド。さらに豚肉のオレイン酸が増えるため、食べた後のさっぱりした旨味も特徴の一つ。1年を経て生産は順調。今年は焼豚類だけで月産50tを目標にしている。
安全性も大きなアピールポイントにしている。ベタグロ社との取り組みで飼育から商品製造までを完全にトレース管理した原料を使い、インテグレーション(一貫管理生産)体制の仕組みを確立しているため、商品履歴は申し分ない。しかも独自契約を行なっている外部検査機関を通じ、徹底した品質管理を実践している。
BFSは日本の大手ハムソーメーカーのソーセージも生産している。
スラポンニチレイフーズの
カビンブリ工場
タイ国内にテパラク工場(第1、第2工場)とカビンブリ工場の2拠点を持つスラポンニチレイフーズは鶏から揚げの生産が非常に好調で、同商品を主力とするカビンブリ工場は昨年に比べ四割以上の急激な伸びとなった。
増えたのは「中国からのシフトに加え、新商品が貢献したため」(杉野正幸上級副社長兼カビンブリ工場長)。
同社は過去数年で両工場の生産最適化を実現している。カビンブリ工場は鶏肉加工の大量生産型。テパラク工場は水産品を中心とした多品種型へと棲み分けが進んでいたが、昨年からはさらに新しい分野に積極的に挑戦している。
テパラク工場では昨年冷凍寿司のテスト生産を開始。試作室も作った。米飯商品などへの衣替えが始まろうとしている。
こうした新規分野商品の開発は、新規市場の開拓と言い換えてもいい。
期待するのは欧米市場。冷凍寿司は昨年4月にブリュッセルの食品展示会に出品し、「かなりよい評価を得た」(同)と言う。寿司タネはスラポンフーズから仕入れることができる強みもある。
握り寿司の次は海苔巻きなどの巻きものに挑戦する。欧米で寿司といえば巻きものが欠かせないアイテム。また、サフランライスのようなアメリカで好まれる米飯商品も試作しており、一部で提案を始めている。
スラポンニチレイフーズの昨年の販売先は日本が九割以上、他にオーストラリア、ヨーロッパ、アメリカに実績がある。今後テパラク工場ではイギリス小売協会の規準であるBRCを取得する予定だ。
杉野上級副社長は「今はヨーロッパを視野に、新しいことを探っている段階」と期待を語っている。
カビンブリ工場はフル生産を続けている。昨年は生産量の増加に伴い、大型のフリーザーに換え、凍結能力は五割ほど増加した。鶏肉の味付けに使用していた機器も大型のものを導入してテストしている。大型にすることで大量の生産履歴を記録する手間が省け、管理が容易になる。
フライヤーのスペースは前後に間仕切りを設置し、これにより室温をより適正に管理できるようにした。中二階も新たに作り、従業員のための休憩スペースを広げた。同工場の1日当たりの生産能力は50tに拡大した。
倉庫は800tの保管能力があり、スタッフは今年4月の時点で88名、ワーカー870名。3年前は55名と450名だったので、人員も増えており、まさに活況を呈している。