エンジニアリング事業の成果あらわる
福島工業 代表取締役社長 福島 裕氏
福島工業といえば店舗や厨房の業務用冷凍・冷蔵庫やショーケースなど川下系設備の大手というイメージが強い。しかし、近年はエンジニアリング事業に専任スタッフを動員し、大型の冷凍・冷蔵倉庫や物流センターの施工にも多くの実績を残している。日本厨房工業会の会長を務める福島社長に、厨房業界の今後も含めて語ってもらった。
福島社長
――昨年を振り返って。
福島 2009年に合流した�盒狭�業とのシナジー効果がかなりでてきた１年でした。この２、３年で当社が特に力を入れているのがエンジニアリング事業、大型冷凍冷蔵庫事業です。トンネルフリーザーを導入した企業があれば、そこで作った商品を保管する倉庫が必要になります。今までカバーできなかった案件でも、�盒狭�業との連携により、当社がそのユーザーのもとにプレゼンすることができるわけです。この件数がかなり増えた１年でした。
――その�盒狭�業のフリーザーも好調だった。
福島 スパイラルフリーザーも実績を増やしつつありますが、タンクフリーザーが特に受け入れられました。震災後、食品を大事にする機運があり、チルド弁当などの賞味期限延長には�盒狭�業の冷却技術が寄与しています。この技術は他社と違った特殊ノズルで高速の冷風を吹き付けて急速凍結します。これまでにも水産練り製品などのチルドの分野で高い鮮度保持技術を実証してきましたが、コンビニ弁当やパスタの賞味期限延長にもその技術を活用しています。また、タンクフリーザーはパネル構造と違い、本体をフル溶接の一体構造にすることで、庫内の洗浄や蒸気滅菌を確実に行なうことができ、その点でも鮮度保持に貢献しています。
――�盒狭�業のフリーザーの先には、御社の大型冷凍冷蔵倉庫があるわけだ。
福島 力を入れてきた成果もあり、エンジニアリング事業の仕事が忙しくなりました。５年前の立ち上げ当初は３名でスタートしましたが、東京と大阪に事業部を置いて、昨年から９名体制に増やしました。彼らは全国に200名ほどいる営業マンと情報を密にし、専任で全国を走り回っています。
――ユーザーの“省エネ”に対する投資もますます盛んだ。
福島 店舗全体のエネルギーを管理する“エスコビジネス”を２年ほど前に立ち上げました。こちらの事業も専任部隊を置いて強化した結果、昨年１年間で大きく成長した部門と言えるでしょう。ＬＣＡ（ライフサイクルアセスメント）を調べた結果、特にユーザーが使用している期間の環境負荷が最も大きいことが分かり、空調なども含めたトータルの省エネが重要だと考えています。今までは店舗向け中心に提案してきましたが、加工場や物流センター向けにも営業を強化し始めました。特に大型の施設ではどこで、どのように電気を消費しているかがなかなかつかみにくかったのです。今年は大手スーパーの大型物流センターにエネルギー管理システムの導入が決まっており、稼働も間近です。
厨房工業会が50周年、“開発の余地はまだある”
――会長を務める日本厨房工業会。昨年50周年を迎えた。
福島 当会は日本で厨房工業が産業化を開始した頃にスタートし、会員各社と技術力を切磋琢磨し、成長してきました。私たちは日本の食文化を機器や設備などのハード面で支えることを仕事としていますが、これは発足当初から変わっていません。時代が変わり、食文化とそれを支える技術が変化を遂げても、食の安全安心を守ることは常に変わらぬ、私たちの最も重要な使命です。
――厨房機器の技術革新には目を見張るものがある。それでもまだ機器自体に開発の余地がある？
福島 食の安全安心は今まで以上に問われており、まだまだ到達点ではありません。環境配慮や省エネを推進する厨房機器の開発はもちろん、何よりも使用者が安心して利用できる機器を普及させることが、当業界が果たすべき社会的役割です。この技術力を武器として国産の厨房機器を海外に進出させ、産業を振興させる力にも期待が寄せられています。
――安心して利用できる機器というと？
福島 その一つが“涼厨”です。夏の調理場はとにかく暑く、何か対策をとらなければ調理スタッフにとって酷な作業環境となってしまいます。しかし、ガス会社と厨房機器メーカーが共同で開発している涼厨は“ガス機器は熱い”、“ガス厨房は暑い”、というイメージを一新。高温になる釜の周囲は空気層を作って断熱、燃焼排気は排気筒から集中排気することで、厨房内への拡散を防ぐ仕組みを提案しています。
――震災以降、電力供給の不安感が高まったのと比例して、ガス機器に対する関心も高まっている。
福島 厨房のオール電化仕様は選択肢の１つとして変わりませんが、震災以降、電力供給に何かあったとき困るのではないか、と感じているユーザーも少なくありません。しかし“オールガス仕様”というのは不可能なため、ガス会社では従来通り、ガスと電気のいいとこ取りを提案する方針に変わらないとしています。私たちメーカーも機器に磨きをかけ、ユーザーが納得し、安心して利用できるよう働きかけていきます。
「三方よし」
――福島工業の、今年の課題は？
福島 引き続きエンジニアリング力を強化します。ユーザーに対して製品だけを売るのではなく、技術とアフターサービスの三位一体型で対応していきます。作った製品を売るだけではなく、どうやったらコストが下がるか、どうしたら売れるかという提案をしていきます。
――営業・施工・サービスという三位一体体制。人材も必要だ。
福島 その通りですね。エンジニアリング事業部やエスコ事業部のように、立ち上げて間もない部門でも多くの人材を必要としています。例年、新卒者は40名ほどの採用なのですが、この春は60名を採用します。人の説明なきところによりよい技術やサービスは生まれません。
――最後に一言。
福島 食の安全に、機器の安全を加えることが私たちの使命です。業務用厨房に最も近い立場で、ユーザーに対して機器の正しい使い方を伝えることが重要です。私の好きな言葉は近江商人の“三方よし”。厨房機器を買ってもらい、ユーザーに“便利になった”、“省力化できた”と喜んでもらい、環境や安全面でも世間から“よし”といわれるように努めていきます。