農林水産研究の成果相次ぐ

 農林水産業界では電磁波殺菌を使った青果物の高鮮度輸送技術の開発やウナギの完全養殖の成功、食糧危機の回避に挑戦するなど、2010年も多くの研究成果を得た。農林水産技術会議事務局は「2010年農林水産研究成果10大トピックス」を選定した。

 民間や大学、公立試験研究機関、独立行政法人研究機関などの農林水産研究成果のうち、内容に優れるとともに社会的関心が高い成果を選出した。

○世界初の「ウナギの完全養殖」に成功、天然資源に依存しないウナギの生産に道を開く
 水産総合研究センターは人工ふ化した仔魚(しぎょ)から成長したウナギを人為的に成熟させて、卵と精子を採取し、これを人工授精、ふ化させて仔魚を得ることに成功した。この仔魚が順調に成長したことにより「ウナギの完全養殖」が実現した。ウナギの安定供給や水産資源の保護に役立つことが期待できる。

○イネ収量増加遺伝子の発見、穀物増産を通した食糧危機回避に挑戦
 名古屋大学はコメの収量を大幅に増やせるイネの遺伝子「WFP」を発見した。多収イネの開発やムギ、トウモロコシなどイネ科作物の多収品種の育成が期待できる。

○米粉100%パンの新しい製造技術を開発
 農研機構食品総合研究所は米粉100%(グルテン不使用)の新たなパン製造技術を開発した。米粉パンの製造に欠かせなかったグルテンや食塩を使用せず、代わりにたん白質の一種「グルタチオン」を加えることで、ふっくらした米粉パンができる。小麦アレルギーの人も食べられるなど、食料自給率向上や米粉の需要拡大が期待できる。

○簡易で低コストの水稲の直播技術を開発
 農研機構九州沖縄農業研究センターは水稲種子に植物の微量要素であるモリブデン化合物をまぶすことで、湛水直播栽培での苗立ちが改善することを解明した。従来の方法に比べて資材費が10分の1程度で済むうえ、種子への処理作業も容易となる。水稲の直播栽培普及の基本技術になることが期待できる。

○「コシヒカリ」の全ゲノム塩基配列解読
 農業生物資源研究所は「コシヒカリ」のゲノム塩基配列をほぼ解読した。すでに解読済みの「日本晴」と比較して、塩基が1カ所だけ異なる「一塩基多型」を約6万7000カ所見いだした。また、コシヒカリのゲノムの起源も明らかにした。優れたイネ品種を効率よく開発できることが期待できる。

○由来の確かな牛卵子の超低温保存技術による子牛の生産、国内で初めて成功
 佐賀県畜産試験場は牛の卵子の長期保存技術の実用化に取り組み、凍結保存した卵子を体外受精させ、発育した胚を再度凍結保存して、子牛を誕生させることに国内で初めて成功した。牛の卵子の実用的な長期保存技術が開発されたことにより、遺伝的に優れた「雌牛」と「種牛」の交配による品種の改良などが期待できる。

○主要マメ科作物ダイズのゲノム解析に貢献
 理化学研究所など日米の国際研究チームは大豆のゲノムの約85%を解読し、約4万6000種の遺伝子を発見した。ダイズの品種改良の効率化が期待できる。

○電磁波殺菌とナノミストを用いた青果物の高鮮度輸送技術の開発
 九州大学などの研究グループは赤外線と紫外線を利用した青果物の電磁波殺菌装置と鮮度保持効果が高い低温輸送用高湿度コンテナを開発した。このコンテナは定置型保蔵庫に利用可能であり、青果物の低コスト鮮度維持輸送に期待できる。

○土壌洗浄法によるカドミウム汚染水田の実用的浄化技術を確立
 農業環境技術研究所と長野県農業試験場はカドミウムで汚染された水田土壌を、現場で「土壌洗浄法」により浄化する技術を開発した。汚染水田に水と塩化鉄を入れて土壌を酸性にして、カドミウムを溶出させ、汚染排水を処理することで除去する。栽培米に含まれるカドミウム濃度は無処理の場合と比較して、70〜90%程度低下する。

○「砂糖・エタノール複合生産プロセス」を開発
 アサヒビールと農研機構九州沖縄農業研究センターは製糖用従来品種に比べてバイオマス生産量が50%高く、糖収量が30%多いサトウキビの新品種を育成し、バイオエタノールを大量に生産できるシステムを開発した。南西諸島のサトウキビ産業の活性化や地球温暖化ガスの削減効果が期待できる。