農林水産の研究成果相次ぐ

 農林水産業界では2011年に、農地土壌の除染技術開発や微細藻類からバイオ燃料を生産する技術、食糧危機の回避に挑戦するなど、多くの研究成果を得た。農林水産技術会議事務局は「2011年農林水産研究成果10大トピックス」を選定した。
 民間や大学、公立試験研究機関、独立行政法人研究機関などの農林水産研究成果のうち、内容が優れるとともに社会的関心が高い成果を選出した。

 ○人類が初めて目にした天然ウナギ卵 −ウナギ産卵場2000年の謎を解く−
 水産総合研究センターと東京大学大気海洋研究所は、ニホンウナギの産卵日などを精密に推定し、グアム島の西方海域で、世界初となる天然ウナギ卵31粒の採集に成功した。この成果により、ウナギの産卵生態と仔魚の成育環境が解明された。シラスウナギの人工種苗生産技術などの開発を通じ、完全人工養殖の実用化が加速すると期待される。

 ○放射性セシウムに汚染された農地土壌の除染技術開発・実証急ピッチ
 農林水産省は内閣府総合科学技術会議、文部科学省、経済産業省と連携して、農地土壌の除染技術を開発し、実証した。その結果、表土の削り取り、水による土壌撹拌・除去、反転耕による汚染土壌の埋め込みで、除染効果を実証し、適用場面を整理した。また、各研究機関でも、除染関連の技術開発が進んでいる。

 ○口蹄疫の感染の迅速診断につながる遺伝子検査法を開発
 宮崎大学は7つのタイプが知られる口蹄疫のうち、アジアで感染が広がる4タイプについて、迅速に増幅し、検出が可能な遺伝子検査法の開発に成功した。今後は、この成果の有用性を検証するため、ウイルスを用いた実証試験の実施が期待される。

 ○水田用小型除草ロボット「アイガモロボット」を開発
 岐阜県情報技術研究所は小型の水田用除草ロボット(アイガモロボット)を開発した。水田の雑草を踏みつぶし搔き出すとともに、水を濁らせることで雑草の光合成を阻害し、幼雑草や種には土をかぶせることにより雑草の発生を抑制する。化学農薬を低減した環境に優しい農業への導入が期待される。

 ○ジャガイモの重大害虫シストセンチュウのふ化を促進する物質の化学合成に成功
 北海道大学はジャガイモの重大害虫であるシストセンチュウのふ化を促進する物質ソラノエクレピンAの化学合成に世界で初めて成功し、農研機構の北海道農業研究センターとともに、この合成品が強力にふ化を促進することを証明した。ジャガイモが生育していない畑でふ化させ、餓死を促す環境調和型の駆除法の実現が期待される。

 ○ピーマンモザイクウイルス病を予防する植物ウイルスワクチンを開発
 農研機構の中央農業総合研究センター、微生物化学研究所、京都動物検査センター、京都府農林水産技術センターは共同で、ピーマンモザイクウイルス病を予防する植物ウイルスワクチンを開発した。開発した植物ウイルスワクチンは使用規制の対象となる臭化メチルの代替技術として期待される。

 ○世界初、ミツバチの幼虫を女王バチに成長させるたん白質を発見
 富山県立大学はローヤルゼリー中に含まれる成分である「ロイヤラクチン」というたん白質が、ミツバチの幼虫を女王バチに成長させることを世界で初めて発見した。ミツバチを安定供給するための飼育法の開発につながることが期待される。


 ○水稲の乳白粒の発生割合を収穫前に予測
 農研機構の九州沖縄農業研究センターとケツト科学研究所は、玄米横断面の白濁部の画像解析により、水稲の乳白粒の発生割合を収穫の10日前に予測する機器を開発した。農業共済の的確な被害申告や共乾施設への混入を防止することにより、品質管理面での活用が期待される。

 ○根こぶ病と黄化病に抵抗性のハクサイ新品種「あきめき」を育成
 農研機構の野菜茶業研究所と日本農林社は、ハクサイの土壌伝染性の主要病害である根こぶ病に強い新品種「あきめき」を育成した。現在わかっている根こぶ菌のすべてのグループに抵抗性を持つ初めての品種。防除薬剤が限られ、防除が難しい黄化病にも抵抗性を持っている。

 ○微細藻類からバイオ燃料を! −次世代のエネルギー源として注目集める−
 筑波バイオテック研究所は油脂を効率的に生産する新種の緑藻類を発見した。筑波大学では、光合成は行なわないが、同様に高い油の生産能力を有する藻類の新種を発見した。農林水産省は中央大学に委託して、藻類の育成・選抜、増殖、油脂回収技術などの開発を行なっている。藻類の新種の発見、技術開発などにより、藻類が生産する油脂を石油代替燃料として実用化が期待される。