「味のものさし」携え、全国走る
インテリジェントセンサーテクノロジー 代表取締役社長 池崎 秀和氏

 味覚センサーで「味を見える化」し、メーカーと流通小売、消費者をつないでいる。「商品開発の速度が上がった」などのユーザーの声が何より励みになるという。研究重視だった過去を反省してフォロー重視へ。センサーの説明にひた走る池崎社長の多忙な日々が続く。

池崎社長と味覚センサー

 ――味認識装置を実用化し、味覚センサー事業を通じて食品業界を支えている。
 池崎 分析する食品の種類は幅広く、飲料、酒類、ハム・ソーセージ類、あるいは醤油のような調味料など様々です。現在、300台ほどの装置が全国で活躍しています。大手流通が今年4月に発売したPBのビールでは、「しっかりとした苦味と酸味のバランスを味覚センサーで証明」したことをポスターや商品ポップで前面に押し出して記載し、店頭で消費者に呼びかけました。このシリーズで6月に発売した発泡酒は「旨み5%アップ」してリニューアルしたことを缶に表示、7月に発売したビールの新商品では「キレ」を際立たせたことをアピールしました。これらはすべて味覚センサーで証明したグラフとともに表現しています。新商品が味にどのような特徴があるのかを消費者にわかりやすく掲示したものです。

 ――コクか、それともキレ味か。どちらのビールを選ぶかを消費者の判断に委ねられる。
 池崎 味覚センサーで割り出したデータを販促材料として活用している事例と言えるでしょう。「今回の新商品の特徴はこの味」というように開発者の狙いを消費者にはっきりと示しています。味覚センサーのデータが消費者の間にも意識され始めたのは最近のことです。

 ――センサーで示したデータとは分布図のようなものがあり、“コク味”や“旨味”など、その製品の味の特徴を位置で示し、他の商品との位置関係を把握することだが。
 池崎 センサー分析による自社の既存品や他社の競合品をポジショニング、マッピングすることで市場解析や新製品の位置づけの確認、繁盛店などターゲット商品との比較を可視化させます。
 例えば、好ましい味を目標とする商品があるとします。そこに近づける位置関係を明確にさせます。官能評価に加え、センサー結果による客観的、視覚的表現がバイヤーにプレゼンする際など有効な参考資料となります。“違いがある”という解釈は機器だけでできますが、“何が違う”のかは機器だけでは十分な判断がつきかねます。そのとき、人の評価が前提としてあれば、分布図の説明にも説得力が出ます。

 ――味を可視化することで、当事者は共通のものさしを得ることができた。
 池崎 目標とする味覚の明確化により、開発期間の短縮が可能となりました。また、センサーを導入する前後で商品設計を変更し、改善したお客様もいらっしゃいます。センサーを導入したコーヒーメーカーの話ですが、従来優秀なブレンダ―を置き、彼らが試行錯誤してターゲット品に近い味を作っていました。しかし、完成したものがターゲットに一番近いものであるか、あるいは一番コストパフォーマンスがいいものであるかが明確でないと苦慮していました。
 そこでセンサーの活用を提案しました。現在では、初めにターゲット品を測定し、それに対する最適化配合を解析的に求めます。インスタントコーヒーでは、ほとんどの場合、微調整は不要だそうで、求められた配合は設定された味の許容範囲内で一番安いものとなっているとのことです。

 ――ユーザーの反応は?
 池崎 商品開発の速度が上がったと大変喜んでいただきました。この手法はブレンダ―不在時にも作業を進めることができ、ターゲット品のデータが登録済みならば、数分で最適化配合を求めることも可能とのことです。客観性の高い数値データまで提供できることも取引先に安心感を与え、プラスに働いていると評価をいただきました。

設立10年、“第2のスタート”

 ――研究を進めてきた“技術”と、そのセンサーに期待するユーザー“ニーズ”。この双方がいよいよマッチングしてきた。
 池崎 今がちょうどその時なのだ、と気を引き締めています。展示会への出展や個別セミナーなどを開催し、新規のユーザーと接する機会を積極的に仕掛けています。味覚センサーを活用することで、共通のコミュニケーションツールを提供できればと思っています。それは、以前までの当社の姿勢を改めるという思いも込めています。反省すべき点があったのです。

 ――反省というと?
 池崎 会社を設立当初、センサーを開発することに重点を置き、それに没頭していました。私自身、研究者体質が抜けていなかったのですね。機器の“使いやすさ”が重要なのにもかかわらず、技術の向上ばかりを追っていました。ユーザーの声を反映することに欠けていたと反省しています。

 ――どんなにすばらしい機器でも、それが使いづらくては意味がない。
 池崎 もう1つ反省しているのは、ユーザーへのフォロー体制ができていなかった時期があったことです。いいセンサーさえできればユーザーが利用してくれる、そう思っていました。しかし、今は違います。ユーザーとともに歩んでいます。

 ――早い段階で気づいてよかった。
 池崎 アンリツから事業を引き継ぎ、独立してから今年でちょうど10年。第2のスタートです。10年経って生まれ変わったつもりで、必死で舵をとっています。今まで当社には食品関係の経験者が人材としていなかったのですが、このほど食品メーカーの幹部経験者を顧問として迎えることができ、心強い気持ちです。
 私たちはセンサーのプロではありますが、食品のプロではありません。だからこそユーザーが目指しているものを真摯に勉強しなければいけません。フォローできていなかった従来の姿勢を反省し、ユーザーとの会話から将来を見据えていければと思います。“インセント”の営業マンはいい情報を持ってきてくれると業界に認めてもらえるよう奮い立たせます。
 売れる食品をつくりたい、というユーザーの意欲をいかに私たちが引き出せるか。せっかくセンサーを活用していただくのですから、結果を出してもらいたい。そうなるよう私たちも日々勉強、日々前進なんだと強く感じています。

 フードエンジニアリングタイムス(FEN)2012年9月5日号掲載