食品機械のEHEDG認証の試験機関設立に向けて
一般社団法人日本食品機械工業会 会長 海内栄一氏

    海内会長

 日本食品機械工業会は、食品製造設備の安全衛生性を認証する国際機関EHEDG(イーヘッジ、欧州衛生工学設計グループ、本部ドイツ)のガイドラインに従った試験機関の立ち上げ準備を進めている。一般財団法人日本食品分析センター内に試験プラントをこのほど設置した。今年度中に評価テストを開始し、早期に国内でもEHEDG認証テストを行えるよう準備に取り組む。欧州発の衛生基準はアジアの国・地域に広がり始めており、国際競争で不利にならないためにも試験機関の設立が急がれる。海内会長(花木工業社長)は「できるだけ早くEHEDGの認証を受けたい」と語る。

国際入札の参加条件として使われる

 ――試験機関の設立準備を開始するに至った経緯は?
 海内 10年ほど前、日食工の会員企業が東南アジアで行われた食品製造ラインの国際入札に参加しようとしたところ、入札条件の中にEHEDG認証の要件がありました。当時は誰もEHEDGを知らず、応札さえ困難だった。
 そこで調べてみると、EU(欧州連合)加盟国間で衛生基準の統一を図るために制定した法規に準拠して、食品機械の衛生設計に関するガイドラインが作られていることがわかりました。現在は世界各国の専門家ら400名以上がガイドライン作成に参加しています。
 ――ガイドラインの特徴は?
 海内 漠然とした衛生設計基準ではなく、具体的な構造を示している点が最大の特徴です。国際的なディファクトスタンダードとして認知され、ガイドラインに適合した製品は欧米をはじめ世界各国の衛生基準に通用します。
 ガイドラインは一般原則や材料、表面、テスト方法、工場設計、洗浄とバリデーション(妥当性確認)など52の書類が作られており、今後も増えることが予想されます。
 ――具体的にどのような基準を要求している?
 海内 EHEDG認証では機械の洗浄性が最重要。例えば機械を洗浄した時に雑菌が残らないよう金属部品を平滑にする必要がありますが、表面の粗さの基準が数値で決められています。さらに、洗浄性を評価する際に水を当てる角度や流量、水圧など様々な最適条件も提示されています。
 ほかにも、洗浄しやすいように機械のコーナー部分を何Rまで曲げなければならないなど細かく規定しています。

世界的企業が集まるGFSIが採用へ

 ――EHEDGへの参加が欧米以外にも広がっている。
 海内 EHEDGの地域セクションに加盟する国・地域は34です。このうち台湾は政府主導で試験機関の設立を進め、2017年にアジアで初めて認証を受けました。我々は2番目をめざして走り出していますが、中国やインド、タイがすでに加盟し、インドネシア、マレーシア、韓国が加盟準備中です。
 ――日食工の事業活動報告によると、GFSI(世界食品安全イニシアチブ)がEHEDGの衛生設計概念を採用する見通しで、影響が危惧されるとしている。
 海内 GFSIは簡単に言えば、ネスレやダノンなどグローバルな取り引きを行うユーザー、メーカーや流通企業などの集まりです。日本でも味の素やイオンなど大手企業が参加しています。
 このGFSI会議での議論はインパクトが強く、発言力もある。我々食品機械メーカーにとってはお客様ですから、彼らが決めることには従わなくてはなりません。
 GFSIが推奨する安全衛生基準のスキームにはFSSC22000やIFS(国際食品規格)などがありますが、これらは食品機械の衛生設計規格について詳細には規定していません。ただ、GFSIが衛生設計の概念を採用しようとする動きが急速に進んでいます。GFSIとEHEDGは人的交流もあるため、GFSIの規格要求事項にEHEDGの思想が採用される可能性が高い。実際、今年夏頃に素案が明らかになるようです。
 ――国内のユーザーメーカーもEHEDG適合を求めてくる可能性はある?
 海内 GFSIに参加する国内企業はすでに意識が向いています。今後は国内の入札案件でありながら、EHEDGが要件となって機械メーカーが応札できないケースが出てくるかもしれません。

日本食品分析センターと連携

 ――現在認証を受けている機器はどれぐらいある?
 海内 全世界で400以上と言われています。製品ごとに適合証明を取る必要があり、試験に合格すれば「認証マーク」を付けることができます。ただ、国内メーカーが取得しようとすれば、現在は欧米や台湾の試験機関に申請せざるを得ず、外国語でやり取りをしたり、実機を持ち込んだりする負担やコストが大きく、取得に対する障害となっているのが現状です。
 早急に試験機関を国内に設立するため、日本食品分析センターと連携し、施設を一部借りて試験プラントを設置しました。
 日本食品分析センターが機械の試験を行いますが、試験機関としてEHEDGから認証を受ける必要があるため、日本食品分析センターのスタッフが今後EHEDG本部で研修を受ける予定です。
 ――機械メーカーが認証マークを取得するまでの流れは?
 海内 機械メーカーが製品ごとに日本食品分析センターに洗浄性評価の試験を申請します。日本食品分析センターは試験を行い、合格した場合にテストレポートを発行します。機械メーカーはそのレポートをEHEDG本部に送り、認証される仕組みです。

EHEDG認証で海外展開を後押し

 ――日食工はEHEDG普及に向けてこれまでも様々取り組んできた。
 海内 ガイドラインの翻訳は9割まで完成しました。また、EHEDGは衛生設計に精通したエンジニアの育成を目的にトレーニングを実施していますが、日本でも7名の上級トレーナー合格者を出しています。
 国内の食品機械市場は縮小が見込まれます。一方で食品機械の輸出比率は7〜8%にとどまっており、海外市場の拡大が必須です。海外競争力をつけるためにはEHEDGに対応した製品開発が重要になってきます。日食工は会員企業の経営支援の一環として、少しでも早くEHEDGの試験機関を設立できるよう取り組んでいきます。
 ――設立の見通しは?
 海内 台湾などは試験機関が認証を受けるまで数年かかったそうです。中国も国を挙げて準備を加速させています。我々はそれよりも早い認証をめざしたい。

(うみうち・えいいち)1948年4月東京都生まれ。電卓やコンピュータなど情報機器販売の商社勤務を経て、1974年花木工業入社。機械設計から在庫管理、営業、経理など業務全般を一通り経験し、1989年社長に就任。現在に至る。日食工では理事、常任理事、副会長を歴任し、2018年5月会長に就任。日本大学理工学部物理学科卒業。