ボイラレスの過熱水蒸気装置を開発
「かくれフードロス」の解決めざす
フードテックベンチャーのＡＳＴＲＡ ＦＯＯＤ ＰＬＡＮ��（埼玉県富士見市、加納千裕社長）は食品の乾燥殺菌装置「過熱蒸煎機」（登録商標）を昨年開発し、食品工場などで発生する加工残さを高品質の食品パウダーにアップサイクルする事業に取り組んでいる。このほど本社内にテスト施設の「ＡＦＰラボ」を開設し、報道陣に公開した。これまでの食品ロス削減とは一線を画すアプローチの仕方で「かくれフードロス」の問題解決をめざす。
日本国内の食品ロスは年間約600万ｔで推移しているが、実はこれは製品の売れ残りや食べ残しなど本来食べられるにもかかわらず捨てられてしまうものを指す。
一方で、キャベツや白菜の芯・外葉、玉ねぎの破材などの加工残さ、規格外・余剰分の農作物を合わせた食品廃棄物は年間2000万ｔ以上に上る。同社はこれを「かくれフードロス」と呼んで食品に再利用するサーキュラ型ビジネスモデルを構築した。
「過熱蒸煎機」は原料投入後、短時間で食品パウダーを製造する
水から一気に過熱水蒸気をつくり出す
「過熱蒸煎機」は加工残さを過熱水蒸気と高温の熱風で乾燥殺菌処理し、様々な食品パウダーに再生する。一般的に過熱水蒸気は100℃の飽和水蒸気をさらに加熱することで発生するため蒸気ボイラが必要になる。
一方、「過熱蒸煎機」はボイラレスの構造に最大の特長があり、セラミックとガスバーナーを使った独自技術で水から一気に過熱水蒸気をつくり出す（特許出願中）。細かくダイスカットした加工残さに300〜500℃の過熱水蒸気を当てて粉砕しながら攪拌する仕組み。乾燥したパウダーは熱風に乗って吹き上げられ、サイクロンで空気と分離して排出される。配管を通さないため熱効率が良く、わずか10秒程度でパウダーに生まれ変わる。
フリーズドライを製造するバッチ式の熱風乾燥機に比べて処理時間は圧倒的に短く、導入コストも大幅に抑えることができる。
食品残は「過熱蒸煎機」に投入する前にダイサーや脱水機（写真）で前処理する。ＡＦＰラ
ボでは試作テストのほか、実際に製造加工するミニプラントの機能も持つ
玉ねぎパウダーに辛味が生まれた
「過熱蒸煎機」で製造した食品パウダーはそれだけでは商品にならないため、用途開発が必要になる。同社はこれまでに食品メーカーや外食チェーンなど20社以上と協力し、野菜や果物、穀物、魚介類、酒かすなど55種類の食材をパウダー化した。その過程で新たな商品開発の切り札になる可能性を秘めていることがわかった。
外食チェーンのセントラルキッチンで発生する玉ねぎの加工残さを「過熱蒸煎機」で乾燥殺菌テストを行ったところ、一般的なフリーズドライで感じるロースト玉ねぎの甘みと違い、生玉ねぎをすりおろしたような辛味と風味が生まれた。ドレッシングの原料に適しているとして商品開発を検討している。
さらに、抗酸化作用を持つケルセチンが失われず、豊富に含むこともわかり、サプリメントへの活用を視野に入れているという。
レタスは色鮮やかな緑色になり、通常の乾燥方法で起こる風味の変化が最小限に抑えられた。野菜ジュースに加えるとフレッシュ感が増した。現在は飲料メーカーと商品開発を進めている。
「過熱蒸煎機」の構造を説明する加納社長、ロック・フィールドや榮太樓總本舗、塚田農場
プラスなどを経て2020年８月にASTRA社を設立した。女子栄養大学栄養学部卒
販路開拓まで手がける持続可能なシステム
導入実績もすでにある。群馬県のしいたけ生産者が規格外・出荷調整の生しいたけを「過熱蒸煎機」でうまみ調味料にアップサイクルすることに成功した。商品開発にはＡＳＴＲＡ社が協力した。
同社は生産者や原料下処理業者、食品メーカーに「過熱蒸煎機」を提案するだけでなく、食品パウダーを使った商品開発や販路開拓、ＯＥＭ販売を手がけるなど、生産者らが自前で販売する負担やリスクを引き受ける
加納社長は「（当社のビジネスモデルは）既存のサプライチェーンの形を壊すことなく、新たな持続可能な循環型システムを提供する。ＳＤＧｓに取り組みたいというニーズは高まっており、それに応えることでかくれフードロスの問題解決につなげたい」と意気込みを示す。
コンパクト設計の乾燥殺菌装置「過熱蒸煎機」、写真は細かくカット
した原料を投入する様子