原点回帰、ミキサーで勝負
愛工舎製作所 専務取締役 牛窪 洋光氏

 愛工舎製作所は「原点回帰」が今年のテーマ。「もう一度原点に帰り、ミキサーを浸透させたい」と牛窪洋光専務は語る。長い歴史を持つ縦型ミキサーだけでなく、カッターミキサーや連続ミキサーなどラインアップを充実させている。特に近年は中堅、大手の食品工場向けに同社ミキサーの提案を積極的に行っているという。

牛窪専務、連続ミキサー(ターボホイップ・TW-70N)とともに

 ミキサーを手がけて70年近くになる同社。ミキシング技術をベーカリー業界向けに注力したのが父である牛窪啓詞社長だった。
 しかし、ベーカリー業界は新店をオープンするとき、オーブンを中心に話が進んでいく。そこからパン作りに必要なその他の機器が選定される。「力を持っているのはオーブンメーカー」と多くの業界関係者は口にする。
 オーブンありきの新店開業。ミキサーが主力の同社もそうした現場に何度も立ち会ってきた。ただ、それでは自分たちが提案したいミキサーが霞んでしまう。ならば、ミキサーを売るためにオーブンの販売も始めよう。牛窪社長は決断した。
 それが20年ほど前から同社が日本の総代理店となっているドイツMIWE社のオーブンだった。本場ヨーロッパで評価の高いMIWE社と取り引きしていることは、欧州の機械メーカーの間から同社の信用度が増すことになる。これをきっかけにオーブンのほか、パン生地用成型機、分割機、シーターなど欧州の製パン製菓機械一式を扱うようになった。

 ミキサーの販売台数を伸ばしたい、と始めた輸入事業。しかし、「ここにきて手を広げ過ぎたことも否めません。売上げ比率でも輸入品が高まっています。当社はやはりメーカー。自社の製品・技術でお客さまに貢献していかなければなりません」。牛窪専務は力を込める。
 「撹拌技術にこだわりたい」。そこで同社は縦型ミキサーはもちろん、カッターミキサーや連続ミキサーを前面に押し出したいとしている。
 カッターミキサーは様々な材料を瞬時に粉砕、混合、乳化する。パンや菓子作りだけでなく、ソーセージやパテ類などの食肉加工、かまぼこやすり身などの水産加工品、餃子の具材など惣菜作りでも活躍している。スープやマヨネーズ、おろしわさびなど調味料用途でも実績がある。
 大分県日田市で地元の特産品を加工しているメーカーはカッターミキサーを4台導入。柚子ペーストや、柚子胡椒に使う柚子の皮の加工、柚子塩に使う乾燥柚子皮の裁断、唐辛子のペースト、梨のペースト、梨のジュースを作る際、クラッシャー代わりに使うなど、用途は様々。「機械の大きさも丁度よく使いやすい。作業者の安全性にも配慮している」と評価を得ている。

 連続ミキサーは大量生産工場向け。ミキシング部内の圧力とミキシングローターの回転速度を一定に保ち、一定量の材料と空気を強制的にミキシング部に送り込むことで、一定品質のエアレーションを連続的に行う。「バッチ式のミキサーや他のホイップマシンではできない理想的なエアレーションができます。製菓工場をはじめ、水産や食肉など食品加工全般、あるいは化学分野でも利用されています」と説明する。
 さらに近年、ミキシング部分の構造を溶接加工から切削加工にするなど改善することで、従来機と比較して乳化・攪拌効率が大幅に向上した。これに伴い受注案件や引き合い件数も、大手菓子メーカーを中心に着実に拡大している。
 FOOMAとモバックショウの違いをより明確にし、出展機器も市場に合わせて変えている。近年のFOOMAでは、ベーカリー向けの実演は抑え、カッターミキサーや連続ミキサーの出展に比重を置き、より広範な種類の食材、しかも大量生産を必要とする工場でも応じられるよう提案している。

“原価管理”の仕組みづくり築き上げる

 牛窪専務は入社して12年。「モノづくりの現場を知らなければ」と始めは工場に務める。その後、生産管理部門へ。ここで驚きの事実を知ることとなる。
 「生産管理の部署に来て知ったのですが、恥ずかしながら当社はメーカーでありながら、各機種の製造原価、とりわけ特注品の製造原価を把握し切れていませんでした。それでも何とかやっていける大らかな時代だったのかもしれませんね・・・」と苦笑する。
 しかし、今後はそういうわけにもいかない。材料費や労務費、外注加工費、その他経費を明確にして、対象の機械がどのような原価で構成しているのか、それが理解できる仕組みを作り上げた。標準機はもちろん、特注品でも製造原価を明確にした。「製造原価の管理には特に力を入れました。この仕組みを3〜4年かけて作り上げてきました。当初、売上げはあっても、期末に整理すると実は儲かってはいなかった、ということがしばしばありましたが、そのような足かせとなるものもなくなりました」と語る。

需要はまだ掘り起こせる

 モバックショウがまもなく始まる。2014年、牛窪専務は日本製パン製菓機械工業会の理事に選任されるとともに、モバックショウでも出品副委員長を務めるなど、業界の中でもより責任のある立場となった。今年のモバックショウの実行委員は牛窪専務と同じ世代の人が多く、若手の手腕が試される。来場者をどう楽しませてくれるか期待したい。
 「今回の規模は出品社281社、1642小間。このうち新規出品社が38社で、小間数、出品社数ともにバブル崩壊以降、最大規模となります。出品部門の担当者として、これだけ多くの企業に出品いただき、うれしく思います。来場者はもちろん、出品者にも有益となるような展示会にしたいですね。ぜひいらしてください」と語る。

 2015年は同社にとっても、新たな流れが生まれそう。毎年秋に開催されている、生産者向けに6次産業化を支援する専門展に初めて出展する。野菜や果物の加工に特化した展示会だ。
 「生産者向けの設備の提案も、今後どう進めていくべきかを考えなければなりません。ここ最近では、埼玉県から要請があり、地元の農家の方たちを当社の研究所に招いて、農産物を弊社の機械で加工したお菓子やパンの商品提案を行いました。参加した農家の中には若い世代の方もいて、自分たちの野菜がどのように加工でき、どんな価値を付けられるか真剣な表情でした。私たちもそれにどう応えられるかを検討しなければなりません」。
 同社の工場は蕨、浦和、春日部といずれも埼玉県にゆかりがある。「国内の機械需要は飽和状態と言われています。そこで新たな販路を求め、海外、特にアジアに進出するのも一つ。同時に、地元埼玉を考えても、実はまだまだ未開の部分があります。そういったところを掘り起こし、私たちができる技術を活かし、地域への貢献もしていきたいですね」。