主力の鮭フィレ製造設備を全面改修した銚子東洋。一新した設備で自社ブランド「わかしお」の生産能力を高めている。実は同じ時期、もう一つ別のプロジェクトも動き出していた。鯖フィレ加工ラインの新設がそれである。
創業当初、前浜の原料魚の加工だけではなかなか安定した操業にはならなかった。自社ブランド「わかしお」を立ち上げることで稼働率を上げ、スタッフの士気向上にもつなげた。同時に東洋水産から即席麺の具材加工の仕事を受け持つことで、さらに安定操業となった。
しかし、その具材ラインが移設するという話が浮上してきた。このラインに携わる30名近いスタッフの雇用をどうするか――。
「辞めさせない。ならば、新たな仕事を作らなければならない」。この話が浮上したときから、山田益司社長は心に決めていた。
フィレの加工には自信がある。鮭だけではなく、鯖のフィレも工場で手がけよう、これならば今いるスタッフの雇用も確保できるはずだ――。2010年1月鯖フィレの加工ラインが運転を始める。
鯖フィレラインで働くスタッフ
「この時期、ちょうど鮭フィレの全面改修計画と重なってしまった。ただ、この新事業はスタッフの雇用にも関わること。軌道に乗るまで、しばらくはこちらに力を注がなければならなかった」と山田社長は打ち明ける。だが、スタッフを辞めさせるわけにはいかないという思いが、2つのプロジェクトを同時に進める原動力になったに違いない。
翌11年4月には、鯖フィレラインにも専用のトンネル式フリーザーを導入。鮭フィレと双璧をなす、もう一つの主力商品に育てようと積極的な投資を続けている。
鯖ラインに導入したトンネル式フリーザー
鯖フィレラインのコンピュータスケールは今年9月に導入したばかり
思いを込めたキャッチフレーズ
「“わかしお”ブランドは私が銚子に来る前からこつこつとやってきていたこと。先代たちはいい商品を作ってくれていた。だからこそ今まで以上に育てたいし、育て甲斐がある。しかし、いきなり大きくする必要はない。一歩ずつ着実に、その地位を確立していきたい」と山田社長は語る。「着実な歩みこそが、工場で働く社員の幸せであり、社員の幸せは会社の幸せでもある」と信じている。
この8月、「わかしお」のブランドマークを作り、商標権を取得した。わかしお商品にはこのマークが付けられている。「確かな品質、届ける笑顔。」というキャッチフレーズも作った。
会社のホームページも一新、フィレができる工程を動画で閲覧できるページを新たに設けた。「製造工程をオープンにすることで、キャッチフレーズの通り、確かな商品と笑顔を届けていることを伝えたい」という思いを込めている。
その思いは工場で働いているスタッフにも向けられている。生産ラインを支えているのは地元銚子の主婦がほとんどを占める。ホームページができれば、「お母さんが働いている工場はこんな場所なんだよ」と家族に胸を張って言えるはず、そんな思いを込めた。
スタッフが気持ちよく働ける工場――。ブランドの確立とともに、こちらも欠かすことができないことだと山田社長は強調する。
「わかしお」のブランドマーク