テクノロジーで水中事業を創造
（一社）日本水中ドローン協会
代表理事 小林康宏氏、副理事 植木美佳氏
（一社）日本水中ドローン協会（東京都台東区）は水中ドローンや水中ロボットの運用上の環境整備促進とエキスパート育成を目的に2019年６月に設立。日本初の水中ドローンライセンス「水中ドローン安全潜航操縦士」の運営や認定スクールの管理、認知度向上のための啓蒙活動を行ってきた。
今年に入ってからは、一定の基準に適合した機種を認定する「水中ドローン機種認定」の開始や、小型船舶教習所「東京ハーバーボートライセンススクール」とのパートナーシップ締結、ドローン撮影クリエイターズ協会（ＤＰＣＡ）との業務提携を発表するなど事業領域を拡大している。
小林康宏代表理事と植木美佳副理事に事業内容や今後のビジョンについて話を聞いた。
小林代表理事
――協会の存在意義について
小林代表 日本の水産業は農業と同等、もしくはそれ以上にＩｏＴの導入が遅れており、温暖化による環境変化や少子高齢化社会への対応が進んでいない。漁業者の経験や勘に依存していた業務をテクノロジーの力で可視化・効率化する必要がある。当協会は水中ドローンの活躍の場を広げることで水中事業の創造、拡充を図りたいと考えている。
植木副理事 水中ドローンの強みは、これまでヒトが潜行できなかった場所に行けること。海上保安庁の潜水士で水深40ｍ、特殊救難隊でも水深60ｍまでの潜行を限度としているが、ドローンは最大深度100〜300ｍの機体も少なくない。
撮影映像はリアルタイムで確認でき、オンラインで地上のメンバーに共有することも可能。コスパを維持しつつ垂直、水平移動可能な機体など使い勝手の良い機体も増えており、高いポテンシャルを秘めたＩｏＴツールといえる。
植木副理事
ただ、空中ドローンと異なり、水中ドローンの操縦を取り締まる法律は現状ない。よって事故やトラブルの発生率は操縦者の技能や危機管理意識に大きく影響を受ける。協会では人材育成を最優先課題の一つとして掲げており、安全性を重視した指導を行っている。
小林代表 また、水中ドローンは機種間の性能差が大きいため、何が可能か、何を得意とするか各機種の性能を熟知したうえで操作を行うことが重要となる。課題や目的に合った機種を選択し、技能を高めることでより高い成果を得ることはもちろん安全性の向上にもつながる。
求められる環境整備や人材教育
――人材教育の今後のビジョンについて
小林代表 「水中ドローン安全潜航操縦士」の資格講習では操作や安全管理方法、法令知識など基礎的な知識、技能習得に向けた指導を行っているが、今後は使用シーンを限定した応用編のカリキュラム作成も検討している。
既に活用実績の多い定置網漁業においても定置網の構造、漁法の特性を踏まえて注意点や活用方法を学ぶことでより高い成果が期待できる。
先日業務提携したＤＰＣＡは国土交通省航空局認定の管理・講習団体で全国30の自治体・官公庁と災害時運用協定を締結している。双方の知見を活かすことで災害・防災面に特化した水中ドローン講習も実現できるのではないか。
植木副理事 「直径30〜40�僂稜朶匹涼罎鮨綯罐疋蹇璽鵑把敢困任�ないか」など我々が想定していなかった使用シーンでの需要は多く、漁業者自らが新たな活用方法を確立しているケースもある。要望や事例を積極的に収集・蓄積していくことで人材教育の充実や事業創造につなげていきたい。
安全潜航操縦士認定スクールも規模拡大をはかる。全都道府県を網羅できるよう環境整備を進めていく。
機種選択・導入の指標をユーザーに
認定スクール開校希望の企業向け説明会を積極的に開催
――水中ドローン機種認定について
小林代表 同認定制度は機体性能や機能、操縦性能などに関する協会独自の基準を設け、ユーザーに機種選択・導入の指標を提供するもの。メーカーの機体開発、市場参入の一助になると見込んでいる。
現在日本国内で普及している機種や近い将来の普及が想定される機種を中心に認定を行っていく。認定された機種は「水中ドローン安全潜航操縦士」の取得講習において、実技実習用機種として使用することを認め、全国の認定スクールでの導入、受講生の持込みが可能となる。
ハイスペックな機器を認定するものではなく、技術適合認証の取得有無など現場で使用するにあたり必要最低限の基準を満たしているかを判定する。
あくまで水中ドローンの普及促進と産業の発展が目的。年に１度、認定要件の見直しを実施。時代の変化に対応した形骸化しない制度をめざす。
2020年の機種認定は新型コロナウイルス感染拡大の影響で進捗に遅れが出ているが、７月には詳細内容を発表する予定。
異業種連携で事業領域を拡大
――船舶教習所とのパートナーシップ提携の狙いについて
小林代表 海洋国家である日本は、国土面積の約12倍の排他的経済水域に囲まれていることから、水中ドローンの活躍の場は必然的に「海中」に広がっており、自由に海洋で作業するには小型船舶免許が必要不可欠といえる。パートナーシップは両分野の啓蒙と受講生の送客が目的。感染拡大が落ち着き次第、調査や講習会などにおいて積極的に連携していきたい。
植木副理事 教習所には水中ドローンのデモ機を設置しており、興味を示す受講生も多いと聞いている。水中への好奇心、探求心も強いのではないか。船舶活用による沖からの潜航は根がかり防止、対象へのダイレクトアプローチなどメリットが多い。リーズナブルな水中ドローンも多数販売されているため、レジャー用途としてもおすすめしたい。
――漁業者へメッセージ
小林代表 海の産業革命の一つになりえる水中ドローンを是非使ってみてほしい。過去にデモンストレーションを実施した際も機能性とコストパフォーマンスに驚き、価値を理解してもらえることが多かった。興味を持たれた方は気軽に当協会に連絡していただきたい。
水中ドローンの活躍の幅が広がっている
【小林康宏 こばやし・みちひろ】
神奈川大学卒業後、渡米し２年留学。帰国後はＷＥＢデザイナー、ディレクターとして従事する。2009年に専務取締役としてスペースワン入社。16年に代表取締役に就任した。慶應義塾大学ドローン社会共創コンソーシアム研究員としても活躍する。世界最大の電子機器見本市・ＣＥＳには６年連続参加。他展示会にも積極的に参加し知見を広げている。1976年生まれ。
【植木美佳 うえき・みか】
水中ドローンインストラクターとして従事するとともに、東北最大級の面積を誇る空中ドローンの練習場（郡山ドローンパーク）を運営する。数年前に水中ドローンと出会い、人間が踏み込めない映像に魅了され、海の産業革命を起こすべく第一線で奮闘中。小型船舶１級、潜水士免許を所有。2015年ミス郡山観光大使にも選ばれた。